父と子
真っ暗だ。
何も見えない。
何があったっけ…。思い出せない…。
そもそも俺は…。そうだ、会社に行かないと…。
でも大切な何か。忘れているような…。
「よう、元気してたか」
聞き慣れた声。
後ろを振り向くとそこには死んだはずの父がいた。
「父さん!どうしたんだよ、なんでここに…」
「お前に会いに来たんだよ」
そう言って笑う父さんは前と何も変わらない。
これは夢か…?でも何か、そうじゃない気がする
「お前こそこんなとこで何してんだ」
何…って。
俺は何してたんだ。
毎日会社に行って、辛くて、強くなりたくて
「父さんと約束しただろ、桃太郎みたいに強い男になるって」
桃太郎…
そうだ…。路地に桃が落ちてて…俺は。
「まだまだ父さんみたいにはなれねえか?」
「たぶん、俺には無理だよ」
「そうか。それじゃ、金太郎は?浦島は?かぐやは?困ってる人はどうすんだ?放っておくのか?」
瞬間、脳に凄まじい電撃のようなものが走った。
「お前は俺の息子だろ。強い男だ」
「まだ…。まだ強くはないよ」
「こんなとこに来ちまうんだ。それはそうか。」
俺は下を向く。
「でも、お前は誇りだぜ、俺の」
そう言って頭をわしゃわしゃと撫でられる。
あの頃の懐かしい記憶がふっと蘇る。
「それで?どうしたいんだお前は」
それ言われ俺ははっきりとした。
今自分が置かれている状況。
やりたいこと。
「俺は…。救いたいんだみんなを。桃太郎だから俺」
「ははっ、いいじゃねえか」
そう言って父さんは笑った。
「また会おうな」
そう言って父さんは消えた。
その瞬間目の前がスーーっと晴れ渡った。
最初に見たのは、傷だらけのかぐやと気絶しているジャック。
俺は無傷だった。
「か、かぐや!!」
「ハァハァ…戻ってくんの遅いわよ…。手貸しなさい…」
かぐやはかなりボロボロだ。
俺がやったのか…?意識がなかった間に?
そうか、俺はハープの目の前で洗脳魔法にかかってそれで…。
「あいつの洗脳に完全にしてやられたわね…。気をつけなさい」
.
.
.
少し前。かぐや
この魔法はかなり身体に負担がかかるからあまり使いたくなかったんだけど…。
予見の灯火。
それは戦神アレスが使用したとされる1級魔法
相手の動きの未来を予見することで攻撃を避ける最強の魔法。
しかし、身体にはかなりの負荷がかかり、未熟な魔法使いでは使った瞬間に気絶するほど。
また、人智を超えた動きはできないため、あくまで自分の力量に比例する。
そんな高等魔法だが、かぐやの実力なら数十分は有に扱える。
桃太郎がやりたいことは大体わかった。
あの巨人を利用してハープに近づきたいのね。
なら私がその手助けをする。
予見の灯火はそのための魔法。
少ししか使えないけどそれでも十分でしょ。
手での合図なら気づくかしら
あまり相手側に悟られたくない。
それにジャックも守らなければならないわ
そうしてかぐやとの連携により、桃太郎はハープの眼前へ。
しかし、洗脳魔法によってそれは掻き消される。
洗脳魔法は【確固たる意志】を持つものには効果はほぼない。
洗脳魔法は辺り一体に撒き散らされるが、かぐやだけが無事であった。
桃太郎、そしてジャックが意思のない、相手の手駒となる。
それはかぐやに4対1の戦いを告げる合図でもあった。
「ハハ…冗談でしょ全く」
そこからはひたすら猛攻を捌くしかなかった。
桃太郎とジャックには手を出せない。
しかし2人の攻撃を捌きながら巨人とハープ倒すのは不可能だと感じた。
容赦なく斬りかかってくる桃太郎とジャック。
「早く帰ってきなさい!!桃太郎!!」
しかしその言葉とは裏腹に、桃太郎の攻撃が止むことはない。
限界を感じたかぐやにさらに降りかかるように予見の灯火が解除される。
「詠唱してる暇すらないわ!」
この場を打開する魔法はいくつもあった。
しかしそれを詠唱する時間はない。
限界を感じたかぐやは弱い弱い光魔法をジャックに浴びせる。
それは数を減らすため、気絶させるだけの魔法
ジャックはその場に倒れ込む。
「ハァハァ…問題はあんたよ桃太郎」
さすがに予見の灯火がないかぐやには猛攻を捌ききれない。
魔法の能力は優秀だが、体力面などは桃太郎の方が上なのだ。
すると突然、桃太郎がピタッと止まった。
なにかに抗っているように。
ハープもこんなに早く洗脳が切れるとは思っていないため、驚きのあまり巨人の動きも止まる。
かぐやは「遅いわよ…」と言って膝をついた。
.
.
.
ジャックが倒れた今、もう巨人とハープの二体を俺とかぐやでどうにかするしかない。
しかしかぐやはボロボロだ。
俺がやるしかない。
「すまないかぐや。もう少しだけ動けるか?」
「大丈夫だけど、どうするの?」
「もう一度同じ手で行きたい」
「でも、洗脳があるのよ!?また同じ状況になったら今度こそ終わりよ」
なんとなく。
何となくとしか言いようがないが、大丈夫な気がした。
確証はなかったが「俺を信じてくれ」というと「わかった」とそう一言。
ハープはあいも変わらず空中に浮遊している。
巨人は今にも襲いかかってきそうだ。
「父さん、俺はもう迷ってない。」
そう言ってもう一度巨人に向かって走りだした。




