ジャックと豆の木
ジャックから貰った種をどうするか、かぐやと話し合っていた。
「その種って育てばどうなるの?」
「俺の知る限りだととてつもない成長を遂げる」
それしか言えなかった。
まさか童話で空へと続く豆の木が育つのを見たなんて言えるわけがない。
しかもこの種が豆の木の種だと決まったわけではないのだ。
竜宮城やおむすびころりん、そしてこのカブもそうだが、俺の知っている童話とは少し違う。
「ならとりあえず育ててみましょうよ。今はホーリーフィールドがあるから瘴気の関与もなく育つはずだし」
かぐやの言う通りだ。
ホーリーフィールドが効いている今しかおそらく種は育たないだろう。
「でも植物が育つ時間って結構長くないか?ホーリーフィールドは短時間なんだろ?間に合うのか?」
「確かにそうね。ホーリーフィールドはもって明日の朝まで。また魔法陣を展開するにはしばらくの猶予が必要になるし…」
「それなら任せてください…」
そんな話し合いをしているとジャックが突然割り込んできた。
何かと思ったが、ジャックはその後も話を続けた。
「僕の故郷では、作物の生産が盛んでした。なので村の民は皆、植物成長魔法という特殊な魔法が使えるのです。」
植物成長魔法。
魔法の分類としては前に聞いたのとかなり違うな。
かぐやの光の魔法もそうだが、教えてもらった属性にはなかった。
いろんな属性の魔法が枝分かれして、派生魔法が発生しているのか…?
ここらへんも竜宮城の時に聞いておけばよかったな。
「なるほどな。じゃあ今から頼めるか?なるべく早くこの村の瘴気を払ってあげたいんだ」
「わかりました。しばらく時間をいただきますね」
俺は種がかなり成長することも危惧して、村から少し離れた所に種を植えた。
ジャックはその種に向かい、魔法を唱え始めた。
するとほんの数分ほどで芽が出て、みるみると成長しだした。
恐ろしいほどの成長スピードに魔法の凄さを改めて思い知った。
1時間もすると芽は完全に成長しきり、太い木のようになっていた。
上の方はもう雲に隠れて見えなくなっていた。
まさに"ジャックと豆の木"だった。
「す、すごい…まさかあの種がこんな大きさになるなんて…。僕自身こんな大きな植物を育てたのは初めてです!」
ジャックも誇らしげだった。
「これで天空の島に行けるな」
「え、嘘でしょ?これを登れって?私はごめんよ!」
「今更遅い!」
そう言って喚き暴れるかぐやを抱き抱え木を登り始めた。
こんなに急ぐ理由はそろそろ夜明けだからだ。
ホーリーフィールドの効果が切れるとまたジャック達は家の中に監禁されてしまう。
早くその状態から解放してあげなくては。
「離してー!離してよ!」
さすがに暴れ回るかぐやを担ぎながら木を登り切るのは大変だったので、木に掴まらせて降ろした。
「本当、なにすんのよ!もうこんな高いところまで来ちゃったじゃない!」
「ああ、これはもう降りられないな。上に行くしかないぞ。かぐや」
「もう分かったわよ、付き合うからさっさと終わらせましょ」
そう言って再び、木を登り始めた。
修行やこれまでの戦いのおかげか、前の俺とは格段に体力がついていた。
かぐやは所々しんどそうだったが、必死な顔をして着いてきていた。
これは後で怒られるやつだろう。覚悟しておこう。
そんなこんなで雲を越え、中腹辺りまで登った所で上を見上げるとそこには晴れた天空に浮かぶ
島があった。
「本当にあるなんて…」
「だから言ったでしょ。嘘なんかついてないもん」
ちょうど、木を登りきると天空島ミッドウェルに到着する高さを確認できたところで、また登るのを再開した。
「そういや、かぐやの光魔法って月の国の特有のものなのか?」
「ぢょっとごめん、喋りかげないで。今もう体力がないの…」
必死な顔がさらに必死な顔になっていた。
これ以上は詮索するのはやめよう。
そうして登っていくうちについに頂上に到達した。
頂上は大きな広間のように広がっており、それがまた木の偉大さを表しているようだった。
木の枝の先にミッドウェルがある。
かぐやは疲れ果てて倒れている。
金太郎も浦島もいないが、俺とかぐやだけでもこの問題を解決しなくては。