四天王【阿修羅】
あちぃぃぃ〜
炎天下すぎるだろ…
ウキウキで鬼退治に出たものの、こう暑いとやる気も削がれるな、、、。
本物の桃太郎もこんな感じだったのか?
もっと元気な顔して冒険してて気がするんだが。
そんな文句を言いながら歩いていると少し前方になにかが立っているのが見えた。
なにか…。人ではない何かが。
その瞬間、全身に電流のような衝撃が走った。
21年生きていて感じたことのない感情。
前方に立っている圧倒的存在感から発せられているものは、、、【殺気】
それ以外の何者でも無かった。
その者は瞬きをする一瞬のうちに目の前まで迫ってきていた。
「はーい。君、桃太郎くんでしょ?」
冗談だろ、50m近くはあったはずだ
瞬きの間にその距離をどうやって?
目の前にきた女の容姿をしたものがそう言う。
一音一音が耳に突き刺さる。
唾を飲むことさえ許されないその存在感。
一言、返答を間違えば、自分の首が飛ぶことが分かる。
「そうだ」
こう答えるしかなかった。簡潔かつ単純に。
長く話せばこの見て取れる悪に飲み込まれる。
「そんな怖がらなくてもいいのに。まだ君を殺そうなんて考えてないよ?もっとリラーックス!」
目の前の悪はそう言う。
殺気をビンビンに放っておいてよく言うぜ…。
「自己紹介遅れてごめんね、私は阿修羅。鬼王護衛軍四天王の1人よ。桃太郎が転生してきたって聞いて飛んできたの」
四天王…
素人の俺からみてもわかるこの禍々しい雰囲気は四天王の強さを象徴していた…
ん?待てよ。
転生?
今転生って言ったか?
転生のことについてこいつは知っている。俺より。
情報収集できるか?四天王…相手に。
「怖がらなくてもいいって。情報収集したいんだよね?いいよ、聞きたいことがあるなら聞いてごらん」
阿修羅はニッコリと笑ってそう言った。
まるで俺の心の内が見透かされているようだ。
「転生…について知ってるんだよな。俺は無事に帰れるのか?」
必要最低限に聞きたいことを。
「うーん、それはどうだろうね?鬼王様を倒せればいけるんじゃない?今の君には正直言って無理だね」
「鬼の王を倒すとなると、お前とも戦わなければいけないんだな…?」
「ご明察ー!でも今の君とは戦わないよ?弱すぎるもん。瞬殺だよ瞬殺。私は強者と戦いたいの。だからもっと強くなってね。」
阿修羅は笑いながらそう言った。
「私を失望させないでよね」
その瞬間に地響きが起こったかのような衝撃に包まれた。
先程までの笑顔は消え、再び殺意が俺に向けられる。
「じゃあね、また会おうね」
そう言い残すと阿修羅は飛び去っていった。
汗が止まらない。
暑さのせいではない。
【阿修羅】
奴のせいだった。
耳から声が離れず、姿も目に焼き付いている。
初めての体験すぎたせいなのか、解放された安堵からなのか俺は頭が真っ白になって座り込んだ。
俺が桃太郎だとか調子に乗って鬼退治をすると意気込んだ割に情けないな。
だが、レベルが違いすぎた。
阿修羅が殺す気ならもうとっくに俺は胴体とお別れし、地面の香りを嗅いでいる頃だ。
勝てるのか?あいつに。
しかも奴は四天王。あれと同クラスがあと3人…。
その上にラスボスが1人…。
仲間が必要だ。
猿犬雉のような優秀な仲間が。
いや、あの生易しい絵本の世界とは違う。
動物ではあいつに太刀打ちできないだろう。
人の仲間がいる。絶対に。
とりあえず、次の町まで行こう。




