潜入、西の地域
翌朝、まだ嫌がる浦島を無理やり俺と金太郎で女装させた。
ネズ太もあんなにも無理だと言っていたにも関わらず、女装用具の手配と着替えをノリノリで手伝ってくれた。
出来上がった浦島を見ると、本当に女性と間違うほどの出来だった。まるで別人だ。
いや、別に俺は可愛いとは思っていない。
しかし、その場にいた皆が「おぉ〜」と歓声をあげていた。
「もう…本当にこういう事をやるのは今回だけですからね。バレたらきちんと助けに来てくださいよ」
浦島も女装が完成すると諦めたようにため息を吐き、出発の準備をしていた。
「浦島、確認しておくが、欲しい情報は鬼についてだ。こっちの地域では得られなかった情報も、貴族なら知っている可能性が高い。期待してるぞ」
「わかりました。ネズ太さん。情報を得たあとはどうやってこちらに伝えればよいですか?」
「そうですね…。通信機器も西の地域は全面禁止しておりますし…。バレないように逃げるしかないかと…」
「夜中の0時から1時は関門の警備が少し甘くなります。これはユリウス卿が出かけるからです。ユリウス卿は警備といった類いのものを嫌います。その隙を突くしかありません。」
ユリウスが夜中に?
何をしているんだ?ますます怪しくなってきた。
「ユリウスは何のために夜中に出かけるんだ?」
「それは私たちにもわかりません。偶然見つけたのです。ユリウス卿を追いかけようにも一瞬にして姿を消してしまうのでどこに行っているのかわからないのですよ」
誰にも知られてはダメな用がある。
鬼の出現、東と西の対立、ユリウスの権力。
なにか、なにかが引っかかる。
なにかがおかしい。
まあそれも浦島がうまく潜入してくれれば分かることだろう。
「それでは行きましょうか。奴隷の手配はしておきました。関門までは私がお送りします。」
そう言って浦島とネズ太は出て行った。
俺と金太郎は引き続き、東の地域で情報を集めることにした。
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〔浦島〕
全く、桃太郎さんと来たら。
こんな案がうまく行くとは思えません。
金太郎も金太郎で笑すぎです。
しかし、僕が上手く情報を得ることさえ出来れば、この国を救える。
桃太郎さんについてきたのは生半可な覚悟ではない。
世界を救うため。困っている人を救うためだ。
「浦島さん。危険を感じたらすぐに逃げてくださいね。浦島さんほどの強さがあれば、逃げることくらいはできると思います。」
「わかりました。ありがとうございます、ネズ太さん。」
「本当はこんな危険なことをさせたくないのですが、申し訳ありません」
「いえ、文句は後で桃太郎さんと金太郎に言います。頑張ってきますね」
そう言って関門に到着した。
関門には数十名並んでおり、厳しい審査をしているのが先の方で確認できた。
時には拘束されるものまで居て、この国の現状がよく理解できた。
ふと横を見るとネズ太は下を向き、拳を握りしめている。
悔しいのだろう。同じネズミ族なのに上下の差ができることが。
早くこの国を救ってあげなければ。
そうしているうちに僕たちの番が来た。
「次、通行申請書を提示しろ」
ネズ太さんには「奴隷ということなので、あくまでも声は出さず、下を向いていてください。」
と言われていたので黙って言う通りにした。
「奴隷の手配だな。おいそこの奴隷、顔を見せろ。」
そう言われ、ドキっとしたが、自分の女装を信じることにした。
そして、顔を覆っているローブをめくり、顔を見せた。
「なるほど…」
そう言い、門番は顔をジロジロと見る、、
正直生きた心地はしない。
「なかなかの上玉だな。貴族様に仕えるのか?幸せ者め。いいぞ、通れ!」
い、いけるのか!!!
僕の女装…僕は女の子顔だったんだな…。