馬鹿げた案
次の日の朝が来た。
俺たち3人は予定通り、東の地域でわかれて情報を探ることにした。
そしてまた夜に宿に集合し、なにか有益な情報が無かったかを話し合うことにした。
金太郎、浦島と別れて俺は聞き込みを始めた。
まずは聞き込みといえば酒場だろう。
ネズミの国にも酒場という存在があるのは驚きだが、情報収集にはもってこいだ。
「いらっしゃい。おや、人間のお客さんかい。珍しいね」
酒場に入ると、少し大人びたネズミの女性が声をかけてくれた。
朝だというのに酒場が空いているし、客も沢山いる。本当に酒場か?そんな顔をしていると、、
「ごめんね、朝は酒場じゃないの。お酒が飲みたいならまた夜来てちょうだい。」
と言うわれた。
しかし、別にお酒を飲みに来たわけではないし、俺は飲める歳ではないし、酔った客に絡まれないのもちょうどいい。
「いや、聞き込みをしている。この国に住む鬼について」
「あぁ、なんだ。鬼ねぇ…。話はよく聞くけど実際見たことはないわ。被害にあったってお客さんも聞いたことがないわね」
やはりか。
鬼という存在は認知されているものの、見たことも何かされたわけでもない。
というか、そもそもこの国の住人は鬼の存在を信じていない。
都市伝説とかいった類だと思っている。
「こっちの地域はなーんにもないから鬼も来ないんじゃないかしら?行くなら裕福な西の地域よね」
確かに言われてみればそうか。
鬼の狙いが分からないが、征服が目的なら西の地域から攻め落とした方が効果的だろう。
しかし、昨日の西のネズミたちの様子を見ても鬼に何かされたというわけではなさそうだ…。
なんだ、何を見落としている…?
「わかった。ありがとう。鬼を倒したらまた寄らせてもらうよ」
「ふふ、ありがと、またいらっしゃい」
そう言って俺は酒場を後にした。
有益な情報は得られずか…。
西の地域。潜入してみるか?
しかし、人間が行けばすぐにバレてしまう…。
こんな時に頼れるのはネズ太ぐらいだろう。
アビリスに会いに行くと言っていたが、まだ家にいるはずだ。行ってみるか。
そうして俺はネズ太の家に向かった。
家に着くと、案の定、ネズ太はまだ出発する準備をしている段階だった。
「あ、桃太郎さん!どうしたのですか?なにか鬼の情報は得られましたか?」
「いや、そのことなんだが、西の地域に行ってみようと思う」
「だ、ダメですよ!何を言っているんですか!ネズミですら厳しいチェックがあって通れるのです!人間のあなたでは絶対に入れませんよ!」
ネズ太は迫真の表情でそう訴えかけてきた。
「だからネズ太のところに来たんだ。その厳しいチェックを通り抜けているのは何をしているネズミなんだ?」
「うーん、そうですね…。貴族に売る最高級の物品を扱っている商人…。奴隷…。などですかね」
奴隷…。
人間の奴隷としてなら潜入可能か?
「ネズ太、人間の奴隷でも価値はあるか?」
「ええ、あります。多種族の奴隷が居ますよ。人間の奴隷はまだ居なかったはずなので、貴族が気に入れば価値はあると思いますが…」
「なら奴隷になって潜入してくる。内部の情報を色々と知れれば便利だろう」
「そ、そんな…!しかし桃太郎さん達はユリウス卿に顔を知られています…。入れないと思いますよ…」
「しょうがない、顔のいい浦島を女装させて潜入させよう」
「う、うまくいくわけありません!」
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そう言われて俺はその後もしばらく聞き込みを続けたが、有力な情報は得られなかった。
やはり、浦島に頼むしかなさそうだ。
金太郎と浦島が帰ってきて、3人の情報を共有したが、やはりこれといった収穫はなかった。
俺はこれしかないという顔と気迫で浦島に提案して見た。
「絶対嫌です!!!」
即答された。
横で金太郎は笑い転げていた。
「真剣な顔をしてもダメですよ!そんなことが通るわけがありません!絶対嫌ですからね!」
「頼む、浦島!これしかないんだ。ダメ元だ。この国を救うためだよ、鬼を倒すって決めただろ?」
「ハハッ、そうだぜ浦島!ものは試しだ!もし失敗したら亡骸は拾ってやるからよぉ!」
2人でお願いをし続ける、押し続けた。
すると浦島は「ぐぬぬ…」と言ったような顔で渋々納得してくれた。
我ながら馬鹿げた案だとは思ったが、うまくいくとこれ以上ない収穫だ。
期日までもう時間がない、明日にでも潜入を開始しよう。