アビリス
「桃太郎さん。猶予はありません。しかし、少しあてがあります。ついてきてもらってもいいですか?」
あて?
なんのあてだろうと思ったがネズ太の真剣な目を見て何も言わず、ついていくことにした。
「これから向かうのはネズミ族なら誰でも知っている英雄の元です。彼は数年前、妻を亡くし、それ以来、剣を置きました。」
そう言って歩いているうちにネズ太はその者の話を聞かせてくれた。
彼の名前は「アビリス」
アビリスは何年もこの国を守ってきた英雄だという。
王直属の剣士達よりも強く、どこにも属さない、誰よりも国民のことを、国のことを考えている人だったそうだ。
しかし、数年前、貴族の1人に妻を殺されたらしい。貴族達はアビリスが讃えられているのが気に食わなかったのだろう。
それ以来、彼は剣を置いた。もう誰とも関わらず、家に篭っているのだそうだ。
「アビリスさんがいれば、もし、戦争が起きても止めれます。それほど強い人なのです。彼の助力が必要です。無理かもしれませんが行ってみる価値はあります」
アビリス。この国の英雄か。
今は鬼と国の2方面を気にしなければいけない状況。
俺たちは鬼を倒すしかない。
アビリスに国を任せることができれば、確かに俺たちも動きやすくなる。
「わかった。アビリスの元へ向かおう。」
そうして歩いていくうちに、一軒の民家に着いた。
それがアビリスの家だった。
古びた、平凡な家。扉も窓もがっちりと閉じられている。本当に中に住んでいるのだろうか。
そんなことさえ思わせるほどの家だった。
「アビリスさん!アビリスさん、いますか。ネズ太です!」
そう言い、ネズ太が扉をドンドンと叩く。
返事はない。
本当にここにその英雄が住んでいるのか?
「アビリスさん!いるのでしょう!どうか、お話を、この国を救っていただけないでしょうか!」
すると、扉がゆっくりと開いた。
「帰ってくれ、もう剣を持つことはない。」
小さな隙間からそう声が聞こえて、再び扉がバタンと閉まった。
これはもうアビリスの助力を得ることは無理じゃないか?
そう目でネズ太に伝える。
しかしネズ太は諦めていなかった。
扉越しにアビリスに再び声をかける。
「アビリスさん。奥さんのことは残念でした。しかし、奥さんは国のために戦うあなたのことが好きだった思います。今、そんな国が崩壊の危機に直面しています。あなたしか、救えないのです。どうか、助けていただきたい…」
震えた声でそういう。
しかし、返事はない。
やはり、アビリスの助力を得ることはできないのだろうか…。
「今日のところは一旦帰りましょう。また明日、私が頼みに行ってみます。桃太郎さんたちは鬼の動向を探ってください」
そうして、アビリスの家を後にした。
俺たちはネズ太の用意してくれた宿に泊まり、鬼の動向を探るべく、話し合った。
「鬼はどこにいるのでしょう」
浦島が話を切り出す。
「まあとりあえず、聞き込みからだな。」
「こんだけ騒動があっても出てこねえんだ。どうせそんなに強くない鬼だろ、余裕だぜ」
「油断するのはダメですよ、なにかこの一件、裏がありそうです」
「浦島の言う通りだ。こんなに騒動があって出てこないのもおかしい。西の地域には今はいけないし、明日は東の地域で別れて情報を探ろう」
そう話し合い、眠りについた。