桃太郎?
整理すると、俺は道端に落ちていた桃に近づくと、謎の声に誘われ転生してきたってことだ。
これは元の世界では俺は死んでいるパターンかそれとも肉体ごとこっちに来たパターンかのどちらかだろうな。
まあ、容姿も違うところを見ると元の世界での俺の生存はあまり期待できなさそうだが。
だがなぜ俺が転生することになったのか…。
あの声はいったいなんだったのか…。
あまりにも謎が多すぎる。
だが、不思議とスッと受け入れることができた。
「桃太郎」というあまりに馴染みのある世界だからだろうか。
ただ、異世界転生ってこうもっと、美女!美人!容姿端麗!この世の欲望の全て!みたいなもののはずだろ…。
これから仲間になるやつがサル、イヌ、キジってもうわかりきった冒険って…。
「桃太郎やい。身支度できとるみたいやな。おうおう、一丁前にカッコええ姿になりおってからに」
桃太郎(俺)のおばあちゃんが目をうるうるさせている。やはり、我が子が旅立つのは寂しいものなのか。俺には家庭がないしよく分からない。
「ほれ、これ昨日の夜から頑張ってつくったさね。きびだんご。持っていって鬼退治の前に力つけんさいね」
で、でた!きびだんごイベント!
本物はこんな色、匂い、形!!
なんかテンション上がってきたぞ。俺が桃太郎という実感も湧いてきた。
うん、しかもうまそうだ。
名物品で今も売られているきびだんごとは全然違うな。やはりあれは偽物だったか。
「んじゃ、行っておいで。おじいさんにも挨拶していくんよ、気をつけんさい」
「あぁ、ありがとう。頑張ってくるよ」
俺は今にも泣き出しそうなおばあさんの顔を見ると、自然とこの人の子のようになり、この言葉を言っていた。
そして、外に出る扉を開けると杖をついた今にも倒れそうな老人が立って空を見上げていた。
おそらく、この老人がおじいさんだろう。
何年もお世話になったはずなのに覚えていないってのはどうも悲しいもんだよな。桃太郎。
すまないが、運命みたいなんだ、この身体貸してくれよな。
そんなことを思いながら俺はおじいさんに話しかけた。
「おじいさん、行ってくるよ。」
「おう、気つけての。」
会話はそれだけだったが、おじいさんは一切俺の顔を見なかった。ずっと空を見上げていた。
よく思えばなぜ桃太郎が鬼退治に行かなければいかないのか。他の人ではダメだったのか。
そう思っているのはこの2人も同様だろう。
生きて帰る。
とても短い時間だったが、2人の顔も声も覚えちまった。俺が今は桃太郎だけど、こいつにもいろんな過去があっただろう。俺が元の世界へ帰れるかはわからないが、もし帰れるならこの体は生きて返す。そう決めて俺は道を歩き始めた。
って言ってもまずどこへ行けばいいんだっけ。
そこらへんの説明ちゃんと聞いてなかったな。
まあ桃太郎のお話からすると、道中で確かお供を仲間にするんだよな。
くぅ〜、楽しみになってきた!
とりあえず一本道みたいだし、このまま歩いて行くか。




