東と西の対立
ネズミの国。
そう言われると何もかも小さく、お粗末なように感じるが、実際に見ると全く想像とは違った。
豊かな自然、その中にある数々の立派な家。
鍛冶屋や商店、宿屋まで完備していた。
正直言って、人間の暮らしている世界よりより豪華なほどだ。
そして広い。この国は1日で周り切れるだろうか?と思わせるほどの広さを感じた。
「ようこそ、桃太郎さん、金太郎さん、浦島さん。本当であれば、客人には豪華なおもてなしをするのが我々の国の流儀なのですが、今回はそんな場合ではないことをご理解ください…」
ネズ太がそう言って俯く。
ネズミの国では手厚いおもてなしをするのが当たり前で、それが出来なくて本当に落ち込んでいるのだろう。
「気にするこたぁねえぜ。悪りぃのは全部鬼の野郎だからよ。鬼を全部倒したらゆっくり、この街のことを教えてくれ」
金太郎がそう言い、ネズ太は「うう…」と目を擦りながら頷いた。
そんな時、
「ネズ太ーーーーー!大変よーーーー!」
女性の声と共に、砂嵐を巻き上げ、どこどこと向こう側から何者かが走ってきた。
「大変大変!ネズ太!西の領土を仕切る奴らが国王の間へ乗り込んでいったわ!」
「な、なんだって!!」
西の領土?国王の間?なんだなんだ、わからないことだらけだぞ。
しかし、ネズ太の焦りようから見て、この国では大変なことなのだろう。
「あぁ、すみません。お客様がきていらっしゃったのね…。名乗り遅れました。私、ネズ太の妻のネズ美と申します。」
妻!?ネズ太ってそんな歳だったのか…。
てっきり俺たちと同年代だと思っていたが…。
人は…いやネズミは見かけによらないな。
「すみません。桃太郎さん。説明いたしますね」
そう言ってネズ太はこの国の現状を説明し始めた。
現在、ネズミの国では国を真っ二つに分け、東と西の地域の派閥があると言う。
ネズ太達が暮らすのは国民達に差がない東の地域。一方、西の地域は貧富の差が激しく、国の貴族達が占領している状況らしい。
西の地域から東の地域に逃げてこようにも、逃げたものは捕らえられるという。
そこへ鬼が来たことによる国の統治不足が国王への責任に向けられているのだそうだ。
ネズ太の予想では、国王への責任を問い、その席から辞させることによって、西の貴族達が更なる権利を手にしようとしているのだという。
つまり、鬼をこの国から追い出すことで国王への責任転嫁をやめさせ、新たな平和な国へ生まれ変わらせたいのがネズ太の目的だ。
鬼だけの問題ではなく、この国では様々な問題が起こっている。
だが、まずは鬼を倒すこと。これが第一条件だ。
「つまり、今、西の貴族達が国王へ会いに行ったのはそれほど時間がないということです。」
「なるほどな。早く鬼を倒さないと貴族達が権利を手にし、東の地域も危ないということか」
「はい。元々はこの国も派閥などなく、豊かな国でした。しかし現貴族であるユリウス卿が来てから国は大きく変動したのです。」
「だが、鬼は国王の元へいないのか?普通占領するとなると国のトップを抑えそうなものだが。」
「鬼は現在、どこにいるかわからないのです。国そのものはどうでも良いのかもしれません。国民で遊んでいるようにも見えます。」
鬼が今どこにいるかわからない…
占領が目的で入国したわけではないのか。
今までの鬼とは違う。何か裏があるな。
「とりあえず、国王の間へ急ぎましょう。ユリウス卿を止めなければ!」
そう言い、ネズ太は「こっちです!」と走り出した。