ネズミのネズ太
俺たちは師匠と別れを告げた後、山を登っていた。
師匠の家は山の中腹にあったため、あと少しで山頂というところだった。
空気が薄くなるほどは高くない標高だったが、前までの俺なら疲れていただろうな。
俺たちは師匠との修行で確実に強くなっている。
体力も、精神面も、そして戦闘も前より。
なぜか、3人とも自信があった。
「俺たちは次はどこにいくんだ?」
「次は前に言った通り、この山を越えた先にある街に行きます」
「桃太郎、おめえ本当にこの世界のこと何も知らねえんだな」
そりゃそうだ。
俺は転生者。
前の世界と雰囲気が全く違う。
それにしてはこの世界に適応しているような…?
小さい頃に桃太郎を死ぬほど読んでもらったおかげなのか…?
いやでも絵本の世界とは全く違う。
いろんな童話が出てきている。
金太郎に浦島太郎、絵本の世界とは内容が違うような気がするが一致する点も多々ある。
全ては同じ時間軸に位置しているのか…?
「あの…あの!」
突然見知らぬ声が聞こえた。
浦島でも金太郎でもない。
3人はお互いに顔を見合わせて聞こえたかという確認をする。
3人ともその声は聞こえていたらしく、頭にハテナが浮かんだ。
「あの…!こちらです!下です!聞こえてますでしょうか!」
そう言われて3人が下を見てみると、小さなネズミがそこに居た。
小さいと言っても自分のすねくらいの身長だ。
この世界はなんでもありだから今更ネズミが喋るくらいでは全員動揺もしてないなかった。
「あぁ、よかった!僕はネズミのネズ太といいます!御三方は相当な実力を持っているとお見受けします!そんな御三方にお助けしていただきたいのです…!」
「おうおう、急になんだこいつは。ネズミのネズ太ってそのまんまじゃねえか!」
相変わらず金太郎がヤジを挟む。
「まあまあ、とりあえず話だけでも聞きましょうよ。ね、桃太郎」
「ああ、そうだな。いかにも焦ってる様子だし、どうしたんだ?」
「すみません!!実は我々の国がこの近くにあるのですが、最近悪い鬼が住み着いてしまって…。もう国は一大事なのです…。お礼ははずみます!ぜひ悪い鬼を退治してはくれないでしょうか…」
ネズミの国…?
おむすびころりんか!?
まさかそんな童話までもが出てくるとは…。
でも待てよ、おむすびもころりんもしてないぞ?
やっぱり俺たちの知ってる童話とは少し違うみたいだな…。
「どしたぁ?桃太郎。そんな複雑な面して?」
「いや、なんでもないよ。ところでネズ太。その国には俺たちみたいな大きい人間も入れるのか?その鬼ってやつも小さいのか?」
「はい、問題なく入れます。我々の国の門前に来ると自動的に小さくなる魔法陣がありますので。
我々の国では中に入ると自動的に出るまでは小さいままでございます。なのでその悪い鬼をも小さいままです。」
待てよ?
なら小さいままの時に鬼を退治すれば、楽勝なんじゃないか?
「その鬼が小さいうちに俺たちが外からその鬼を退治するってのはダメなのか?」
「はい…それは不可能です…。我々の国は地下深くにあり、到着するまでにかなりの時間が…。しかも鬼は最奥の間にて待機しています…。なので外からだと攻撃が通らないかと…。」
なるほど、目の前に行って叩かないとダメということか。
かなり厄介だな。小さくなると戦闘能力が落ちるかどうかも懸念点だ。
しかし俺は桃太郎。
鬼退治のためにここにいる。
目の前に困ってる人…いやネズミがいたら助けるべきだよな…。
「金太郎、浦島、いいか?」
「へ、そんなこと聞くなよ」
「ええ。一緒にきたからには覚悟はしていますよ」
「ってことだ。ネズ太。俺たちをネズミの国へ案内してくれ。」