修行—31日目—
それから1ヶ月近くの時が経った。
俺たちはその内、彼のことを師匠と呼ぶようになった。
俺たちは毎日毎日、朝、師匠との戦闘訓練を行い、それから各自で鍛錬に励む。
この生活を1ヶ月。
俺たちは確実に成長していた。
また同じように戦闘訓練を行おうとした朝のことである。
「今日は1対1の戦闘をする。桃太郎からだ」
ようやく1対1の戦闘訓練。
だが、3人がかりでもやっとだった師匠の相手を1人で。
やれるのか、その不安しかなかった。
だが、四天王や強い鬼と戦う時、必ずしも仲間がそばに居てくれるとは限らない。
元々1人でも戦えるようにという修行だ。
これを乗り越えなければ俺は強くなれない。
「さあ、準備ができればいつでもこい」
師匠が1ヶ月間で初めて剣を抜いた。
白く輝く刀身。
本気だ。
生半可な気持ちでは斬られる。
俺はこの1ヶ月の修行を振り返る。
師匠の重心の使い方、師匠の見切り方、師匠の気迫。
全てちゃんと見てきた。やれる。
「行きます」
地面を力強く踏み、抜刀し、最高速度で斬りかかる。
俺の最高速度の剣を軽く、受け止められる。
火花が散る。
師匠は俺の剣を弾き、上段横の薙ぎ払い。
重心を後ろに逃がし、避け切る。
すかさず、弾かれた剣と体勢を元に戻し、下段からの掬い上げを行う。
髪の毛をかすめるが、それも避けられる。
師匠は横に避けた体勢のまま鞘で突く。
間一髪、剣の持ち手でのガードが間に合う。
が、体勢が崩れる。
師匠は剣を鞘に仕舞い、抜刀の構え。
目を見開け、脊髄で反射しろ、息さえするな、確実に止めろ。
師匠の渾身の居合いが繰り出される。
この1ヶ月の修行が脳内に蘇る。
あの時、師匠なら…。
剣と剣のぶつかり合う激しい轟音。
止めた。師匠の居合いを。
だが、止めるので精一杯だった。
すると師匠は一歩下り、剣をまた鞘に収めた。
「よし、桃太郎。これで修行は終わりだ」
そう師匠が言う。
「俺の居合いをよく受けきった。お前は強くなった。胸を張れ」
1ヶ月、ひたすら師匠と立ち合いをし、動きを盗み、それを自主的に行う。
これを繰り返してきたことに意味があったのだ。
俺は泣きそうになるのを堪え、師匠に感謝を伝えた。
それから金太郎、浦島とも師匠は剣を用いた立ち合いを行った。
金太郎も浦島も、最後の居合いを受け止めることができていた。
確実に3人は成長していたのだ。
「お前たちはまだまだ強くなれる。俺との経験がそうさせる。これにて修行は修了とする。」
「明日、人々を助ける旅へ再出発しろ。今日はゆっくり休め」
そう3人に言い放った。
俺たちは精神的にも肉体的にもヘトヘトになりその場に倒れ込んだ。
「やったな、桃太郎、浦島。俺たちやりきったぜ」
「ええ、やり切りましたね。確実に成長している実感があります」
そう言う2人を見て、俺も実感を得ていた。
四天王、鬼王、あいつらに少しでも太刀打ちできるなら、この1ヶ月は無駄じゃなかったと思える。
その晩、師匠は猪の肉を振る舞ってくれた。
修行を頑張ったご褒美だそうだ。
俺たちは腹一杯食べ、語り明かした。
師匠も多くは語らなかったが、自分の話をしてくれた。
かつて昔、今のように鬼が蔓延る世界があったこと。
鬼を倒す旅をしたこと。
強さを求めるため、多くを経験し、失ったこと。
乙姫とはそこで出会ったそうだ。
そんな話をし、俺たちは疲れを癒すため、眠りについた。
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朝を迎え、目を覚ますと、珍しく金太郎も浦島も起きていた。もちろん師匠も。
また鬼を倒す旅をすると思うと不安でいっぱいなのだろう。
俺も例外ではない。
だが、ここに長くはいられない。
「師匠、1ヶ月間お世話になりました。」
「ああ。」
無口な人だったが強さは本物だった。
俺たちは師匠に別れを告げ、新たな一歩を踏み出した。