修行—1日目—
朝になり、いい匂いがして目が覚めた。
起きてみると、彼が囲炉裏でご飯を作っていた。
金太郎と浦島はまだ起きていないようだ。
俺は起き上がると彼に近づいていった。
「起きたか、食え」
それは雑炊のようなものだった。
しかし、空腹の俺には嬉しかった。
「あの、それ程の強さがありながら、なぜ鬼たちを倒さないのでしょうか?」
俺は疑問に思っていたことを投げかけた。
そう、この男は恐ろしく強い。素人の俺でもわかるほどに。
なのになぜ、彼が世界を救わないのだろうかと。
「俺は現役を引退した身だ。これ以上、生きている者を斬りたくはない。」
冷静に、そう言う。
現役を引退したと言っていたが、過去は何をしていたのだろう。
聞きたくもあったが、話したくないと言う雰囲気が漂っていたので聞くのはやめておいた。
そうしているうちに2人が起きてきた。
2人も雑炊を食べながら今後の修行についての話を聞いていた。
厳しい修行になることは感じていた。
そうして雑炊を食べ終わると、男は始めようと言い、外に出て行った。
「まずは3人同時にかかってこい。実力を知る」
そう言われ、3人同時ならまだ一矢報いるチャンスがあるかもしれないと思い、俺たちはそれぞれ武器を持った。
先ず、金太郎が斧を振りかぶり、斬りかかる。
しかし、ヒラリと避けられる。
俺は浦島に目配せをし、剣を抜き彼に斬りかかる。当然の如く当たらない。
その間に浦島は3級魔法の詠唱を始める。
俺と金太郎は浦島の詠唱の間の時間を稼ぐ。
何度も何度も斬りかかるが、当たらない。
それどころか反撃もしてこない。
「水の精霊よ、美しく流れ落ちる水の魂を我が手に!」
そうして浦島の詠唱が完了し、不意をついた魔法が彼へと降りかかる。
しかし彼は片手でその魔法を受け止め、消滅させた。
俺たちは呆気に取られていたが、まだまだと、浦島を加えた3人で斬りかかる。
が、当たらない。本当に当たらない。
「おい、桃太郎、気づいてるか。あいつ一歩も動いてねえ。体の重心を動かすだけで俺たちの攻撃を避けてやがる」
そう言われ、足元を確認すると確かに一歩も動いてない。
ここまでの実力差があるのか。
「それまでだ。もうわかった。今日の修行は終わりとする。あとは各自で励め」
そう言って彼は小屋に戻っていった。
え?これで終わり?
時間にして10分程度しか戦っていなかった。
これで今日の修行が終わりなのか?
呆れられたのだろうか。
俺たちが一撃も当てれなかったことで見放されたのだろうか。
俺たちは3人で話し合う。
これが本当に俺たちを強くするのか。
とりあえず各自でやるようにと言われ、俺たちは鍛錬を積むことにした。
山での鍛錬は過酷極まった。
足場が悪い上に少し傾斜になっているからだ。
俺たちが鍛錬を積んでいるところをたまに彼は見にきていた。
そうして日が暮れると、俺たちは小屋に戻ることした。
戻ってみると、彼はまた囲炉裏で晩御飯を作っていた。
「修行があれだけだったことが不満か?」
彼は俺たち3人の心のうちを見抜き、そう言う。
「戦闘経験とは長時間やって身につくものではない。俺との戦闘を得て、自ら学べ。俺が教えることはない」
そう言って晩御飯を俺たちに渡した。
よかった、呆れられたわけではなかったのだ。
しかし、強くなるコツを教えてくれると思っていたが、まさか自ら学べだとは。
だがこれも修行のうちだ。
俺たちはまた、ご飯を食べ、疲れを癒すかのように眠りについた。