修行の始まり
謎の男について行く道中、彼のことを探ろうと俺はいくつか質問をすることにした。
助けてもらったのは明らかだが、まだ敵が味方かわからない。しかもあの四天王が引く判断をするほどの男だ。分が悪いとまで言っていた。
話してくれるかは分からないが質問する必要性は感じた。
「なぜ、俺たちを助けてくれたのですか?」
「乙姫から思念伝達を受けていたのでな」
思念伝達…
そんなことまでできるのかよ…
まあもう今更この世界には驚かないが。
「乙姫さんとはどういう仲なのですか?」
「昔の旧友とでも言っておこう」
昔の旧友?
共に戦った仲?
それともこの人も竜宮城へと行っていた人物なのだろうか?
「俺たちはこれからどこへ?」
「乙姫からお前たち3人を鍛えるようにと言われている。修行をするために我が家へ来てもらう」
修行…
確かに俺たち3人の無力さは今しがた思い知ったところだ。
そこそこ強くなったと思い込んでいたが、四天王を前にすればあの通り、動けなくなるのだから。
それに比べてこの男は風神の攻撃を弾き、風神に撤退までさせた男。
この男に修行をつけてもらうことは合理的と言える。
「質問はそれだけか?ならこちらから質問させてもらう」
「お前たちはなぜ弱い?」
思ったものと違う角度からの質問。
その質問に俺たちはすぐに答えることができなかった。
「言い方を変えよう。お前たちには何が足りないと思う」
俺たちに足りないもの。
魔法?身体能力?剣技?
しばらく悩んだが、どれも俺たちに足りないように思える。
「経験だ」
また冷たく男は言い切る。
「見たところ、そこの斧を持った少年。お前は戦闘能力について非常に抜きん出た力を持っている。そして後の2人は魔法が使えるようだ。桃太郎に関しては剣技も鍛えれば伸びる。なら何が足りないか。それは圧倒的強者との戦闘経験だ」
彼は立ち止まり、俺たち3人の方を振り返り説明してみせた。
強者との戦闘経験。
阿修羅や風神のような圧倒的な力を持ったもの。
また、この男も同類であろう。
「つまりこれから俺がいいと言うまで、毎日俺との戦闘をしてもらう。手を抜くつもりはない。死んでも文句は言うな」
そう言い放ち、男はまた歩き出した。
俺たちは何も言えなかった。
さっきの風神との対面で1人も動けなかった。
それを痛感し、彼の言葉が間違っていないことを悟ったからだ。
乙姫は見抜いていたのだ。
俺たちが夜叉を倒し、鼻が高くなっていること。
このまま行けば、どこかで挫ける時が来るとこ。
そして俺たちに将来性があること。
これはチャンスでもある。
強くなれる。阿修羅や風神とやりあえるほどに。
「ついたぞ、今日は休め、明日より修行を始める」
着いた先は古い民家。
山小屋といった方が良い。
ちょうど超えるはずの山の中腹にあった。
俺たちはお互いに決意の顔をしていた。
必ず強くなるという決意。
そして静かに眠りについた。