またね。
「ぐはっ………。クソが…。我がこんなところで、鬼王様に与えていただいた力がこんなところで…!」
夜叉は合技を食らってなお、息をしていた。
正直跡形もなく吹き飛ぶくらいの威力だとは思ったのだが、、
だが、これは逆に良かったのかもしれない。
夜叉から今後の情報を聞き出せるチャンスだ。
「俺たちの勝ちだ夜叉。竜宮城から出ていけ、そして鬼王とやらの情報も頂くぞ。」
「ふふっ、誰が貴様らなどに言うものか。鬼王様への服従は絶対!!人間如きに敗れた鬼など鬼王様が許してくれるはずもない!ならば!ここで!自ら死を選ぶ!」
そう言って夜叉は自らの鋭い爪の生えた手を心臓部に突き刺した。
大量の血を口から吐いたあと、その場にドサっと倒れ込んだ。
俺と浦島はそのあまりに酷い光景に言葉を失っていた。
そんなところにドカドカと走ってくる音が聞こえ、扉が勢いよく開いた。
「おい、桃太郎と浦島!無事か!」
金太郎だった。
金太郎の方こそ無事なのか?服は血だらけになっている。
「ああ、無事倒したよ。それよりそっちこそ無事なのか?道中の鬼は?」
「ああ、この血は全部あいつら雑魚鬼のだい。全員蹴散らしてやったぜ」
そう言い、金太郎はニンマリと笑う。
そんな話をしていると、夜叉の奥にあった扉がゆっくりと開いた。
そして中からなんとも美しい女性が現れた。
「あの、、、悪い鬼はもういないのでしょうか?」
「乙姫さん!」
その可憐な女性は乙姫だったのだ。
おそらく夜叉が最後の断末魔をあげたのを聞いて出てきたのだろう。
「浦島さん…!あなたが助けに来てくださったのですね!」
「ご無事でよかった…!お怪我などはありませんか?」
「はい…。なにもされていません。それよりも、そちらの方々は?」
「こちらは乙姫さんを救うために協力してくれた桃太郎と金太郎です。」
「大変失礼致しました。私はこの竜宮城が主、乙姫と申します。この度は悪鬼を倒し、竜宮城を救っていただき、代表してお礼申し上げます…。」
そういって乙姫は深々と俺たちに頭を下げた。
金太郎はその美貌にニヤニヤしていたが、それを浦島に横から注意され口論をしていた。
金太郎と浦島が口論をしている中、俺は乙姫に会わせたい人がいるとだけ言った。
そうして俺は入り口に倒れていたおじいさんを起き上がらせ、乙姫の前へ連れて行った。
もう本当に長くはないのだろう。
息を荒げ、おそらく視界すらぼやけている。
おじいさんが倒れていた場所には血溜まり。
それが吐血だということもすぐにわかる。
そして肩を貸したまま、乙姫に会わせた。
「あなたは…?」
乙姫がおじいさんに声をかける。
その瞬間、おじいさんは頬を濡らす。
「乙姫…さんや…久しいの…覚えているかいな…」
「あなたは…まさか、70年前に別れた…あの人なの…?」
乙姫も頬を濡らす。
「なぜ…なぜ…戻ってきたの…?」
「あんたさんに会いたくて。それだけじゃよ」
水竜人は歳を取らない種族らしい。
だが寿命はある。人間よりは長いが。
あの時のままの乙姫と、年老いた老人。
しかし、その間には確かに長い歴史を埋める何かがあった。
おじいさんがドサッと倒れる。
乙姫がそれを支え、膝の上にゆっくりと乗せる。
「ああ…懐かしいの」
「昔もこうして私の上で寝ていましたね」
俺と金太郎と浦島はその場からそっと離れた。
あの2人の邪魔はしたくない。最期の時はゆっくりと。
「あんたが…ずっと好きじゃった」
「私もあなたを想っていました」
幻かどうか、俺たちはそこに昔のおじいさんの面影を見た。
「ごめんよ、会いに来れなくて」
「いいえ、最期に会えたんですもの」
「先に向こうで待っているよ」
「務めを終えたら、すぐに…。」
「ありがとう、乙姫、ありがとう」
「またね…。」
そうしておじいさんは息を引き取った。
その場にいた者全員が目を瞑り、祈りを捧げた。
「ありがとうございました。桃太郎さん。あの方を連れてきてくださって。」
「いえ、辛いでしょうが、頑張ってください。」
「はい、私は竜宮城を守る務めがあります。あなた達は行かれるのですね。」
「ささやかながら、これを。」
そうしてある手紙をくれた。
「これをある方に渡してください。誰に渡すかは自ずとわかります。それを使う時と場所も。」
俺はなんのことかさっぱりわからなかったが、それを受け取った。
そうして乙姫と話していると2人が来た。
「おうおうおう、どうやら浦島のやつ、俺たちについて来たいらしいぞ!」
「着いて行きたいではなく、ついていってあげるのですよ?」
「馬鹿野郎、こんな貧相なやつ仲間にいると思ってんのか!」
「あー、そんなこというんですか!魔法も使えないくせに!」
そうしてまた2人は口論になっていた。
仲がいいのか、悪いのか、どっちなんだろう。
だが、浦島が仲間になってくれるというのはこちらからするとありがたい。
「浦島、これからよろしく頼む」
「ええ、任せてください。いきましょう!」
こうして竜宮城は解放され、浦島が仲間になった。