合技の力は夜叉の首へと届く
詠唱を覚えるのは少しばかり手こずった。
高校受験をしているようだった…。
だがしかし、俺と浦島は無事魔法を使えるようになった。3級魔法だけど。
2級魔法はそれなりの訓練を積まないと発動すらしないようなので、これから頑張っていこう。
俺と浦島が魔法の練習をしている間、金太郎はひたすら斧を振っていた。
この努力家のところは俺も見習わないとな。
「ごほっごほっ…」
そろそろおじいさんの体が限界のようだった。
早く、竜宮城に行かなければ。
「よし、桃太郎さん。時間もありません、練習はこの辺にして竜宮城へと向かいましょう。竜宮城は我々水竜人が入れないように結界が張られております。桃太郎さん達しか行けません。どうかお許しを。」
なるほど、それで海晶達は魔法を使えるのに助けに行けなかったのか。
俺たちでどうにかするしかない。
おじいさんのためにも。この竜宮という都市を守るためにも。
「それでは行きましょう!」
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ここが竜宮の本城。
忌々しい気配が様々な場所から体を突き刺す。
おそらく、かつての竜宮城の姿はここにはないなだろう。
おじいさんが見てわかるくらいに疲労している。
時間がない。急がなければ。
しかし、本城の最奥へと進む道にはいわゆる雑魚鬼が大量発生していた。
「おい、俺は魔法が使えねえ。ここらへんの雑魚鬼は俺が相手してやるからお前らは夜叉んとこ迎え!」
そう言って金太郎は雑魚鬼をバッタバッタと薙ぎ倒していった。
「行きましょう、桃太郎さん。ここはこ金太郎さんに任せましょう」
そう言って浦島と俺とおじいさんは先を急いだ。
長い廊下を走っていると奥に大きな扉が現れた。
おそらくあれが夜叉のいる部屋。
「準備はいいですか!いきますよ!」
その掛け声と同時に大きな扉を2人で開けた。
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奥に見えるは、赤鬼よりは小さい鬼の姿をしたもの。
奴は椅子に座り、こちらをまじまじと見つめている。
おじいさんを扉近くに座らせる。
ここからは俺と浦島がどれだけ早く奴を倒せるかの戦い。
「ほぉ、人間か。あの数の我が部下をどうした?」
感じるのは邪気と殺気。
しかしあの時ほどではない。
あの阿修羅の時ほどでは。
「悪いな、俺の仲間にやられてもらってる。乙姫様を返してもらおうか」
「ふふ、我が夜叉と知っての発言か?」
夜叉は目を見開いて怒りをあらわにする。
「まあよい、かかってこい」
その瞬間、夜叉は氷魔法を俺たちに向かって放ってきた。
「無詠唱!?」
しかし、この威力は3級魔法。
俺たちと大差はないと見た。
俺たちは氷魔法をギリギリでかわした。
「俺が気を引く!浦島は防御魔法を張ってくれ!」
「わかりました!」
浦島が詠唱に取り掛かる。
「どうした、そんなものか人間!簡単に殺してしまうぞ!」
その瞬間、氷柱が俺の目の前に迫る。
これは避け切れない!俺は目を瞑った。
「守護の神たる我が命じる。絶対なる防壁と慈愛に満ちた加護なりて、我とその仲間を包み込みたまえ。ロスト!」
俺の前に防壁が貼られ、氷柱は粉々に砕け散った。
「ナイスタイミング!あとは俺も詠唱に取り掛かる!またタイミングを合わせてくれ!」
「わかった!」
「小癪な人間どもめ!我の技をよくも!!」
「氷の精霊たちよ、、、」
そして夜叉もなぜか詠唱を始めた。
おそらく飛んでくるのは2級魔法!?
俺と浦島が使えるのは3級までだ。
対処できるか?考えろ、方法があるはずだ。
夜叉は詠唱をしながらも氷柱を飛ばしてくる。
無詠唱とはこれほどまでに厄介なのか。
「行くぞ、その魂ごと凍れ!」
「来るぞ浦島!合わせろ!」
「氷河の如く儚く美しい力を我が身に!ネオアイシクル!」
先ほどまでの5倍は大きい氷柱が、目の前に迫ってきていた。
だが、俺たちも詠唱を完了させていた。
「火の精霊よ、熱く燃えたぎる業火を我が手に!」
「水の精霊よ、美しく流れ落ちる水の魂を我が手に!」
やっぱりナイスタイミングだ浦島。
お前とは気が合いそうだ。
俺たちは海晶とのやり取りを思い出す。
—相手が2級魔法を使って来た場合ですが、対処法が一つだけあります—
—対処法?—
—3級魔法を合わせるのです。合技といいます—
『ファイナル・ウォータ!』
水と炎が混ざり合い、渦を巻いて氷を溶かす。
その合技はおじいさんの思いを乗せ、夜叉へと届いた。