魔法
「そうです。この竜宮に何か異変が生じているのですね?この者たちはそれを解決するべく馳せ参じた勇者といったところです。お通ししなさい」
俺たちが乗ってきた亀が一言そういうと、門番たちは深々と頭を下げ、俺たちを竜宮城へと通してくれた。
そこで異変が起きた。
先ほどまで元気だったおじいさんが突然、息を荒げだした。
どうやら秘薬の効力が薄れ、かつての病が体を蝕んでいるようだ。
「おい、大丈夫か、辛いなら一回帰るか?」
金太郎が不安げにおじいさんに問う。
金太郎もこういうこと言うんだな。
いや、こいつも根は優しいやつだったか。
「いや、大丈夫じゃ。しかも一度竜宮城へと入ってしもうたら帰っても効力が戻るわけではない。もう片道切符なんじゃよこれは」
おじいさんの本気をそこに見た。
できるだけ早く、この老人を乙姫に会わせなければ。
もし会えなかったら、一生悔やんでも悔やみ切れないだろう。
俺たちは亀に乗ったまま、しばらく街を進んで行った。
「皆さま、あれが竜宮の本城でございます。」
亀がそう言った。
4人が視線を前にやる。
目の前には外から見えていた大きな巻貝の城。
立派。としか言いようがなかった、
その光景に見惚れていると、目の前に水竜人が走ってきた。
「雲亀様でございますか!帰られたと聞き、参りました!」
「おお、あなたは乙姫様護衛軍の海晶ではありませんか。」
「いいえ、かつての栄光でございます。今は引退してしがない老後生活を送らせていただいておりますゆえ。」
「それで、今の竜宮はどうなっているのですか?」
「はい、説明致します」
海晶とやらは、竜宮に起こったことを説明してくれた。
鬼王が世界に鬼を蔓延らせた後、ここ、竜宮にも鬼が来たこと。
その鬼の名は「夜叉」というらしい。
現実にいた時も聞いたことのあるような、ないような。
夜叉はその圧倒的な力で瞬く間に、竜宮の護衛兵達を惨殺し、竜宮城を占拠したらしい。
その際、乙姫のことを気に入り、自分の嫁にするべく監禁しているらしい。
「どっちみち鬼を倒して竜宮城を救わなきゃ、おじいさんの願いは叶えられないってことだな」
「しかし、夜叉とやらは強力な魔法を使ってくるのです。私たちには対処できず…」
なに?この世界には魔法があるのか?
異世界だからそういうのを期待していたが、桃太郎の世界だからないと思っていた。
「魔法に対抗するにはどうしたらいいのですか?」
ここは知識を蓄えるためにも聞いておいた方が良さそうだと感じ、海晶に質問した。
「はい、魔法に対抗するにはこちらも魔法で応戦するしかありません。桃太郎さん御一行は魔法は使えますか?」
「残念ながら魔法に関しての知識は全くありません…。」
「ならば、竜宮城へと行く前に魔法を教えましょう。」
そう言って海晶はこの世にある魔法を説明してくれた。
魔法は全部で8種類。
炎系、水系、風系、雷系、氷系。
回復魔法、防御魔法。
それと禁忌魔法だ。
その中でも3級魔法から1級魔法まであるらしい。
生まれつきどの種類の魔法が得意かは決まっているらしく、使えない人は使えないそうだ。
また、禁忌魔法に関しては使用することを禁じられており、使える人も限られているらしい。
そして一番重要なのが、魔法を使用する時は詠唱をしなければいけないこと。
圧倒的な才能に恵まれた者であれば無詠唱でも発動可能だが、そんなことは滅多にないらしい。
海晶は詠唱が載っている本も見せてくれた。
「まずは自分自身がどの魔法に特化しているかを調べてみましょう。」
そう言って海晶は俺たちの額に手をかざした。
何かを調べているようだ。
「なるほど。桃太郎さんは炎系魔法。浦島さんは水系と防御系魔法、金太郎さんは残念なことに魔法は使えないようですね…」
「な、なに!?俺は使えねぇのか?」
「はい、こればっかりは生まれつきなのでどうすることもできませんね…」
金太郎はすこぶる落ち込んでいた。
まあ仕方がない、金太郎には力で頑張ってもらおう。
俺は炎か…。うん、悪くない。
「あまり時間はありませんが、ぶっつけ本番で使うよりはいいでしょう。詠唱を覚える意味も兼ねて、少し練習していきましょう。」
海晶の案に乗り、俺たちは魔法を少し練習した。