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「攻略トップ勢が劣勢じゃねえか」

「まさか。最初に一方的に嬲りすぎたから、相手の子供に手を抜いてるんだろ」

「いやでもあの場面でスキルキャンセルなんて真似できんだろ、どんな胆力してんだ」


 ギャラリーからも声が上がる。

 集中する怜蘭(レイラン)には届かない。


(私のスキルはことごとく見切られ、修太郎くんのスキルには今一歩対応できない。私に残された勝ち筋は――)


 追い込まれながらも冷静に思考を巡らす怜蘭。


 自分持つ手札を心の中で再確認しながら、目の前に立つ小さくも強大な存在に届きそうなものを吟味する。


 そして――


「OK。決めた」


 十字架の大剣を胸の前で立てるように構え、目を瞑る怜蘭。次の瞬間、動き出した彼女はまるで舞うように剣を振るった。


 《剣舞》


 ある意味ゲームがこう(・・)なってから、使う者がほとんど居なくなったスキル。


 その効果は「一切の防御行動を取れなくする代わりに、剣速を段階的に高めていく」というもの。


 怜蘭が通った場所には青色の残光が糸を引くように残されており、妖艶さと不気味さを兼ね備えているようだった。


 互角だった速度という一点に限り、怜蘭は修太郎を大きく上回る。そして戦闘スキルのような〝決まった動き〟ではなく、不規則で予測できない動きに翻弄され、修太郎は再び防戦一方となる。


 修太郎《1》


 怜 蘭《1》


 激しい攻撃の中で修太郎は何度も鋭い太刀筋を受けながらも、なんとか反撃をして怜蘭の数字を減らす。


 そして、怜蘭の目が怪しく光ったその直後――修太郎は彼女を完全に見失った(・・・・・・・)


(見えない。見えないけど、いる(・・)


 漠然とした〝気配〟というべきだろうか。


 背後に寒気を覚えた修太郎。

 転げるように回避する……と、次の瞬間、背後で怜蘭が大剣を地面に振り下ろしていた。


「避けた……? そんな」


 怜蘭の顔が驚愕に染まる。


 修太郎の研ぎ澄まされた感覚によって奇しくも避けられたその剣は、この日の最速だった。


 刹那の攻防の果て――

 修太郎は笑顔を咲かせた。


 修太郎の剣が、怜蘭を捉えた。


「……」


 押し黙って見守るラオ。

 まさか避けられると思わなかった怜蘭もまた、複雑そうな表情で肩を落とす。


「私の負け」


 そう呟いた怜蘭。

 二人の頭上の数字が消え、訓練場に歓声が沸き起こった。



 * * * *



 大勢からの歓声を受けながら二人が出てくる。

 凄まじいレベルの攻防が人を呼び、訓練場にいたおよそ80人のプレイヤーが修太郎と怜蘭のPvPを見守っていたのだった。


 怜蘭に複数人のプレイヤーが歩み寄る。


「黄昏の冒険者の怜蘭さんですよね? 俺、貴女に憧れてこのゲーム買ったんですよ!」

「わ、ガチ美人。レアすぎる」

「怜蘭さん惜しかったー、偶然にしてもあの一撃を避けられたのは運がなかった」


 そこにはチラホラと、怜蘭に熱のこもった視線を向ける者もいる。


「怜蘭さんって結構な有名人?」


「うん。なんせβ時代には紋章のマスターとサブマスにPvPで勝ち越した事もあったし、あと単純に美人だからな」


 誇らしげに語るラオは、ファンの対応に追われる怜蘭を面白そうに見つめている。


「といっても、そんな怜蘭さんを倒した修太郎君っていよいよ何者……?」


「しかも修太郎のヤバい所は本人より召喚獣だもんね」


 驚きを隠せない様子のバーバラ。

 ケットルは修太郎の色々な規格外さに、半ば呆れたような声で呟いている。


「怜蘭さん、楽しいねPvPって!」


 目を輝かせながら詰め寄る修太郎。

 怜蘭は心にズキリとした痛みを覚えながら、柔らかな笑みを浮かべた。


「うん、楽しかった。後半は全く歯が立たなかったけど」


 怜蘭は目に見えて落ち込んでいる様子。

 フォローしようと口を開く修太郎だが――



「お、なんだなんだ? なんの騒ぎだ?」



 訓練場に響く豪快な声。

 見ればそこに第6部隊が勢揃いしていた。


 隊長の大男、ガルボが目線を動かしながら野次馬の間を縫って歩み出る。そこで項垂れる怜蘭と、不思議そうに見上げる修太郎と目が合った。


「あの怜蘭さんがこの子に負けたんですよ!」

「相当強いっぽいです」

「剛剣のガルボ隊長のPvPも見てみたい!」


 勝手に湧き立つギャラリー達。


 ガルボは満更でもなさそうで、修太郎を興味深そうに見下ろしている。その後ろで隊員達は気まずそうに事の成り行きを見守っていた。


「どら、おじさんとも一つ勝負してくれないか?」


 修太郎が返事するよりも先に、ボルテージが上がったギャラリー達の声が訓練場を包み込む。怜蘭は申し訳なさそうに修太郎へと歩み寄り、こっそりと耳打ちした。


「ごめん、私のせいだ」 


「ううん全然いいよ。だって今ね――すっごく楽しいんだ」


 修太郎は笑顔でそう答える。

 ガルボの方へ視線を向け、力強く頷いた。

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