079
受付に戻ってきた第21部隊。
一行の到着を待っていた受付嬢が笑顔で手招きする。
「お待たせいたしました! まずはワタルからの言葉をお伝えしておきます」
マスターという言葉に、反射的にパーティ内に緊張が走る。ルミアは全員を見渡しながら、メール画面へと目を落とした。
「まずは皆さんが欠ける事なく侵攻から生還されたことに安心いたしました。そして、この度は侵攻を未然に防いでいただきありがとうございました。都市は結界により守られているとはいえ、放置していれば付近の討伐隊は全滅していた可能性があります。功績に釣り合うかは分かりませんが、防衛報酬を用意させていただきました――と、原文ママですが」
そう言って丁寧に頭を下げるルミア。
報酬という言葉にパーティから歓喜の声が上がる中、茶髪の女性はほっと胸を撫で下ろした。
「認められたんですね。良かった」
「映像もありましたし、まず問題ないと思っておりました。報酬の方を先に処理しておきたいので、全員にお送りいたしますね」
ルミアはワタルから送られてきたゴールドを第21番隊全員に送る。面々はそれを受け取り、その額に目を丸くした。
「450万ゴールド?!」
活発な少年は見たこともない額に声量を上げて驚いた。その声に、エントランスのメンバー達が「なんだなんだ?」と耳を傾けている。
「ボスのレベルを加味しても危険手当含め妥当な金額だと思います。現在アリストラスにはレベル37のボスに対応できるメンバーはほとんど居ませんでしたから」
と、金額の根拠を述べるルミア。
ワタルは6人全員に450万ゴールドずつを渡してくれとルミアに伝えていた。それは純粋に皆を救ってくれた感謝の気持ちもあったが、それ以上に〝レベル37のボスを倒せる技量を持つパーティ〟へ金額的支援を行い、ゆくゆくは最前線に合流してほしい――という期待も含まれた額であった。
短髪の女性は焦った表情で修太郎を見るも、修太郎は笑顔を浮かべ「受け取ってください」と頷いた。
「それに加えて、第21部隊を今より第7部隊へと昇進する事となりました! これによる戦闘への強制力などは発生いたしませんが、初心者の戦闘指南などをお願いする場合がありますので、ご了承ください」
「――ッ! 光栄に思います!」
思わぬ報酬に驚くバーバラ。
第21部隊は第7部隊に飛び級昇進した。
紋章ギルドの戦闘部隊は第1部隊を頂点とした実力順に番号が振り分けられている。第7部隊となれば、ことアリストラスを拠点とする部隊の中では最も優れた位置であった。
ショウキチと眼鏡の少女は嬉しそうに手を取り合って喜んでいる。
部隊の番号を若くするのは全部隊の目標――そしてなにより、部隊を一桁台にまで成長させるのは元盾役の悲願でもあったからだ。
「これで防衛報酬は以上となります。それとラオと令蘭の件は話が纏まりそうですか? 部隊番号も上がったので別のメンバーからの移籍申請も期待できると思いますが……」
「そうですねぇ……」
バーバラはショウキチとケットル、そしてキョウコへと視線を向けた後、力強く頷く。
「ウル水門を通りながらお二人の人柄を観察させていただいて、問題なさそうであれば、そのまま当面カロア城下町を拠点に活動していこうと思います」
「そうですか! ではお二人にメールを送っておきますね」
バーバラの前向きな回答に、ルミアは表情を明るくさせた。そしてバーバラは二人に集合時間と場所を伝えてほしいと頼んだのち、全員は準備のため一度解散となったのだった。
* * * *
森林を駆ける巨大な狼。
それはまるで吹き荒ぶ風にでもなったかのようで、背に乗る修太郎とショウキチの絶叫は慣れると共に歓喜の声へと変わり、森の中に響く。
「最高の召喚獣じゃん! 馬鹿にしてごめん!」
『ふん。何を今更当たり前のことを!』
褒められたシルヴィアは尻尾を振りながらさらに速度を上げる――余談だが、森の中には幾つかのパーティがいたのだが、高速移動する修太郎達を目視できる者はおらず、静かな森の中に子供の絶叫が響くという不気味な体験を味わっていた。
「ますます別れるのが辛くなるぜ。逃した魚は大きいってやつだな!」
「ごめんね」
「なーに、パーティの脱退なんて別に珍しいことでもないしな! それに新入りになるかもしれない二人、聞けば元最前線組の高レベルプレイヤーみたいだし」
「じゃあ申請を受け入れるんだね!」
実はあの二人をパーティに迎え入れるに当たり、最後まで歯切れの悪い回答をしていたショウキチ。しかしどうやら彼の中の何かが変わり、二人を受け入れる気になったようだった。
「……まぁ、やり残しを終わらせれば、もうアリストラスにも未練ないからな」
やり残しの事を聞き返す修太郎だったが、ショウキチはそこからシルヴィアが止まるまで、何かを考え込むようにして沈黙した。
そして森林から出た二人。
シルヴィアは小狼となって修太郎の肩に乗った。
「最高だったぜ。本当にでっかい召喚獣で、背中に乗れるなんて思ってなかった」
そう言って、ショウキチは拳を突き出す。
修太郎は不思議そうにそれを見た。
「ほら右手出す! ここにこーして、合わせると、男と男の友情ーなんつって!」
修太郎の拳とショウキチの拳が合わさる。
二人の少年は互いに目を合わせ、たまらず照れ笑いを浮かべたのだった。