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紋章ギルドのエントランス。
雑多に混み合うプレイヤー達の中、戦闘指南役の大柄なオカマは二人のプレイヤーの対応をしていた。
「そうねえ……向上心があって実力もあるパーティはつい最近、最前線に向かって出発しちゃったのよね」
困ったようにそう答えるキャンディー。
詰め寄るように立つ二人のプレイヤーの内、背の高い男勝りな女性が落胆の声を上げた。
「ええーそうなのかよ。こりゃ来るタイミング間違えたな」
幅広の斧を背負い、髪をサイドテールに纏めている。その横には物静かそうな色素の薄い女性が立っており、その華奢な体には不釣り合いな十字架を模した大剣を背負っていた。
「うちに入ってくれるのは大歓迎よ。最前線組なら即戦力だろうし、ラオちゃんに関しては貴重な盾役だもの」
値踏みするように観察するキャンディー。
しかし二人は紋章ギルドにも目ぼしいパーティが空いていないと知るや否や、あからさまに落胆したように溜息を吐いた。
そんな時だった――
エントランスに驚愕の声が響いたのは。
* * * *
驚愕の声を上げた受付嬢は、エントランスにいるプレイヤー達からの視線が一斉に集まったのを察し、慌てて声のトーンを落とした。
「侵攻を発見し撃破した……ですか?」
「ええ。証拠として映像と戦利品をいくつか提出しますね」
受付前に並ぶ第21部隊の面々。
美しい銀色の小狼を抱える修太郎にチラチラと視線を送りながら、ルミアは戦利品を受け取って確認した。
映像というのは、文字通りプレイヤーが見ている風景を切り取ったもの。
それはドライブレコーダーのように常に風景を録画する機能であり、特殊なmobを発見した時や未知のエリアに踏み入った時、更にはPKを受けた時報復するためによく使われた機能であった。
「か、確認いたしました。レベル37のボスで、出現場所は森林内。戦利品も高レアリティ品です」
ルミアは巨大な黒い狼の姿を見て怖気を覚えつつ、最も重要な疑問を投げかける。
「皆さんのレベル変動値を見る限り、格上ボスを討伐した事実は疑うべくもないのですが、これだけ格上の相手をどうやって――?」
その問いに対し、修太郎が口を開くのを庇う形で、バーバラが素早く答えた。
「その辺りは固有スキルなども関わってくるのであまり詳しく話せません。重要なのは、かつてのキング・ゴブリン級の侵攻が目の前で発生し、遭遇した我々が討伐した事実が認められるかどうか……です」
凛とした態度の彼女に気圧される形で、ルミアは戦利品を返却しつつ、それに答える。
「かしこまりました。私もメンバーの守秘義務は尊重いたします。映像や戦利品の写真があれば十分な証拠になりますし、一度上の者に確認を取ってから防衛報酬の受け渡しになると思います。それでよろしいでしょうか?」
「はい、結構です」
部隊の事情を察して尊重するルミアに、バーバラは心の中で心底感謝しながら頷く。
魔導結界が維持されている今日、かつてキング・ゴブリンの侵攻に脅かされた状況とは違い、都市を破壊される心配はない。そのため規模によっては報酬の額もそれなりに落ちてしまうのだが、今回は例外として適用される。
ここいら一帯のプレイヤーではどうにもできないほどのレベル。
都市から出ないよう呼び掛ければ人命は守れるかもしれないが、放置し大きく膨らめば脅威も増大する――キング・ゴブリンの二の舞となるからである。
そして討伐方法として出した〝固有スキル〟という言葉には「深く詮索しないでほしい」という、ある種暗黙の了解のような効力を持つ。
固有スキルはプレイヤーの最重要機密。
知られると不利になる種類もあるからだ。
「マスター達に確認をとってきますね。今日中に処理したいので、どこかで時間を潰していただけますか?」
「分かりました、よろしくお願いします」
ルミアとバーバラが同時に踵を返す。
「時間潰しだって。とりあえずご飯でも食べに行く?」
「賛成!」
バーバラの言葉に嬉しそうに手を挙げるショウキチとケットル。そして一行がレストランの方へと向かおうとしたその道中――三人のプレイヤーに声を掛けられた。
「ちょっといいかしら?」
それはキャンディーと、最前線から降りてきた二人の女性プレイヤーだった。




