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しばらくの沈黙――
それを破ったのは剣士だった。
「強ええ!! 強えじゃんシルヴィア!」
興奮した様子で声量を上げるショウキチ。
ショウキチはまだまだ子供だが、幼いながらも〝追いかけていた背中〟があり、あの人ならこんな時にどんな言葉を掛けるのかだけを考えていた。
「シルヴィアが居なければ皆死んでたぜ! 助けてくれてありがとうな、修太郎、シルヴィア」
内心彼はまだ恐怖に怯えていた。
手も足も、震えが止まらない。
しかし今は自分達を救ってくれた英雄に感謝の言葉を伝える――それが何よりも大事だと考えていた。きっとそれが、他の仲間達を立ち直らせる鼓舞になるとも思っていたから。
「ううん、皆が無事でよかったよ。僕からもありがとう、シルヴィア」
修太郎は別の意味で冷や冷やしていたが、素早く皆を救ってくれたシルヴィアへの感謝の気持ちは勿論大きい。彼女の頭を撫でながら、念話でも労いの言葉を掛ける。
『助かったよ、びっくりしたけど』
『目立たないように一瞬で倒しました!』
『う、うん。倒し方は確かに見えないくらい早かったよ』
頭を撫でてやる修太郎。
この場に紳士服や白い少女がいれば、目立ちすぎる彼女の処理方法に激怒していた事だろう。
黒騎士姿ならば無茶をしても人目を気にしなくて良いという免罪符があるが、素顔を晒した修太郎が目立つのは、魔王達にとって望むところではなかった――それだけ注目を集め、危険に晒されるからである。
しかしそこまで考えが及ばないのがシルヴィアである。修太郎から褒められたこともあり、誇らしげに撫でられていた。
ショウキチと修太郎のやり取りを見て、次第に落ち着きを取り戻してきた残りの三人。
聖職者は、黒色の狼が溶けた場所を眺めながら口を開く。
「侵攻――で、間違いないよね。しかも産まれて間もない侵攻。目の前で発生するとああなるのね」
そう呟きながら、修太郎へと視線を向ける。
「修太郎君、シルヴィア、本当にありがとう。ネグルスをひと目見ただけで倒せないって思って、合図もなしに祈りを使ってごめんなさい。集まるまで待つ余裕を持てたら良かったのに……」
バーバラの言葉に、修太郎は首を振る。
「そんなことないですよ! バーバラさんの作った祈りに全員が逃げ込む形が一番だったと思います」
事実、なまじ戦闘経験が乏しく戦闘に自信があるパーティだったら、あの状況でも〝戦闘〟を選択していた事だろう。何度かの死線、徹底した戦闘訓練、連携を経た第21部隊だからこその、今回の対応であった。
格上に挑めば、待つのは確実な死である。
特にネグルスの機動力から逃れる術はない。
「腰抜けちゃった……」
「私も今もまだ涙が止まりません」
未だにへたり込む魔道士と、体育座りで顔を埋める弓使い。
修太郎は前回のパーティを思い出していた。
第38部隊はこの空気の後、事実上解散しているからだ。
「命があれば万々歳だぜ! それに見ろよ、俺らのレベルめちゃめちゃ上がってる! それに戦利品もほら!」
空元気だが、嬉しそうに仮想空間を見せびらかすショウキチ――その中には《ネグルスの大牙》や《ネグルスの爪》などの戦利品がずらりと並んでいる。
「戦利品の分配も考えなきゃかぁ……でも今回は全部修太郎君に渡すのが公平かも」
自分の仮想空間を眺めながらそう呟くバーバラ。ギョッとした顔でショウキチは彼女を見た。
それに対して修太郎が答える。
「え、いや僕は大丈夫です! 自動で分配されたアイテムはその人の物で、武器や防具は適した人に譲るのがいいと思います」
武器にも防具にも金にも頓着がない修太郎だからこその提案だったのだが、修太郎が言った〝適した人に譲る〟の部分に、一同は懐かしさを感じていた。
「誠もそう言うと思う」
ケットルが頷きながらそう答える。
修太郎の提案を受け、バーバラは「戦闘区域だから手短に終わらせるね」と一言。
「とりあえずこの場での交換などは後回し。戦利品も一度ギルドに見せれば侵攻防衛の報酬が貰えると思うし、報告の後に色々やろっか」
冷静に言うバーバラ。
全員がそれに頷いた。
一度仮想空間を流し見る修太郎――新たに追加された戦利品を確認した。
デミ・ウルフの毛 ×10
デミ・ウルフの牙 ×3
ネグルスの爪 ×1
ネグルスの大牙 ×1
ネグルスの宝石 ×1
そして装備品へと移り――
黒き大狼の大杖 NEW
新しい装備品が入っているのを確認した。




