053 s
マップも目標地点の半分まで進んだ頃、誠はある一点を見つめ指をさす。それは崩れて朽ち果てているものの、面影から教会ということが見て取れた。
「ちょうどいい。あそこで一旦休憩すっか」
「ええー! まだ戦えるよ俺!」
「だーめだ。俺が疲れたし」
不満を漏らすショウキチの頭をポンポンしてやりながら、誠はスタスタと教会跡へと進んでゆく。
ショウキチやケットルは不完全燃焼なのか口を尖らせ、保護者ポジションである弓使いと手を繋ぎながら、その後を渋々付いていった。
その光景を微笑ましそうに見つめながら黙って付いていくバーバラに、ミサキが声をかけた。
「誠さん、パーティの事をとても大事にしてますね。憎まれ役全部買って出てますし」
「そりゃあもう。あの子達も誠に戦闘面だけじゃなくずっと守られてる事に、早く気付いてくれるといいんだけどねぇ」
親の心子知らず――
今年で34歳になる誠にとって、12かそこらの子供であるショウキチやケットルは自分の子供くらいの年齢である。
人生まだまだ折り返しも過ぎていない彼だったが、このような過酷な世界に閉じ込められた子供達が不憫でならず、ギルド内で最も危なっかしく立ち回っていた彼等にパーティを持ちかけたのが第21部隊誕生の秘話である。
誠は過保護とも取れるほど彼等を守る。
自立したと勘違いする彼等の不満が募る。
バーバラ達はそれを悩ましく思うのである。
教会内部は外観同様に廃れているものの、外ではいたる所にゴブリン達の生活の跡が見られたのに対し、ここにそういうものは見当たらない。
(教会にはmobが沸かないのかな? フィールド上でも簡易的な安全地帯はあるんだ)
あまり外を知らないミサキ。
頭を動かし興味深くその風景を眺めながら、また一つこの世界の常識を知る。
誠達は教会の中心に集まりながら腰をかけ、バーバラが手慣れた動きで敷き物と料理を並べてゆく――光のポリゴン群を纏いながら現れたそれらは、出来立ての様に湯気が立ち、優しい匂いが広がった。
「簡単なパンとシチューで悪いけど」
「おい、ビーフにしてくれよ」
「我儘言わない。抜きにするよ?」
ピシャリと却下された誠は「へいへい」と言いながらパンを掴むと、今度はキョウコが怒った様に声を上げた。
「こらっ誠さん! いただきますは?」
「いただきます!!!」
「はい、よろしい」
教会内が笑いに包まれる。
ミサキは、こんな殺伐とした世界にもあたたかい空間があるんだなと笑みを溢した。
渡された料理を「いただきます」を言いながら口に運ぶ。口一杯に広がる香ばしい匂い、サクサクとした口触り、ほんのりと塩味がとても美味しく感じた。
「美味しいです!」
「まあギルドの料理屋から買ったやつなんだけどね」
ミサキの言葉に苦笑するバーバラ。
ホワイトシチューも美味しくいただいたミサキは、輪から少し外れ、生命感知で周りを警戒しながら弓を丁寧に拭き始めた。
(今日もよろしくお願いします)
ミサキは武器を使った後、これをしないと落ち着かなくなっていた。毎日のルーティンが身に染み付いているようだ。
それを見ていたキョウコが目を輝かせながら寄ってくる。
「ミサキさん、毎回自分で武器の修繕してるんですか?」
「修繕じゃないですよ! いつも守られてます、ありがとうって感謝の気持ちを込めて拭いてるんです」
「武器、大切にされてるんですね」
「ええ、恩人からいただいた物です」
弓を撫でるミサキの顔は慈母のように穏やかで、同性であるキョウコですら息を呑むほどに美しい絵となっていた。
キョウコは心の中で「これが銀弓の女神か……!」と、叫んでいた。




