044
時系列が戻ります
具体的には34話目とここで繋がります
閑話休題――
「召喚士がいるパーティに入りたいんです」
笑顔でそう伝える修太郎。
意外な注文に、受付嬢の目が見開かれる。
もちろんプレイヤー側からの注文は今まで0ではなかった。しかしそれはどれも〝レベルの高い人達と一緒がいい〟とか〝危険が無く楽してお金がたくさん稼げるのにして〟などといったものばかり。
あるいは盾役や回復役の有無を聞かれることはあれど、召喚士指定の依頼などあまり聞かない。
「かしこまりました、確認いたします。依頼を受ける際……あなた様の名前や職、レベルが掲示されますがよろしいですか?」
「はい、大丈夫です!」
「ありがとうございます。それでは検索いたしますね」
笑顔で答える修太郎にルミアも笑顔で返しながら、人数調整のため待機中となっているパーティ一覧をスクロールしていく。
(召喚士指定か、いるかなぁ……)
実のところ、召喚士や従魔使いなどの職は全体を通して見れば少なくはない……ないのだが、相棒となる魔物を扱いこなすまで労力を要するため、特に低レベル帯――アリストラスを中心に活動しているプレイヤーだけで見ればかなり珍しい部類に入る。
スクロールを続けるルミア。
ふと、一つのパーティが目に止まる。
「召喚士はかなり希少なので現在居るかどうか……あ、一つありました。依頼内容はエマロの町までの往復護衛ですね。ただこちらの召喚士は少し素行に問題が……」
「わかりました! じゃあそれをよろしくお願いします!」
元気よく即答する修太郎。
しかし、ここで問題が一つ。
諸事情(紋章ギルドはイリアナ坑道の危険は完全には去っていないと考えているため)により、エマロの町まではウル水門を通るしか手段は無く、ウル水門の適正レベルである12を大きく上回った〝レベル15〟が参加の最低条件となっていた。
純粋な瞳を輝かせるこの子が果たしてそれを満たしているかどうか――ルミアは少し申し訳なさそうに切り出した。
「失礼ですが、こちらの依頼は対象レベルが15となります。条件は満たされていますか?」
それに対し、修太郎は表情を変えず
「はい、大丈夫です!」
と答えた。
反射的にルミアの顔付きが変わる。
(見た感じ小学生くらいなのに15……β組かしら? まあでもあの子達もデスゲーム後にその位まで上げてるし……なんにせよ、戦闘技量を見ないことには外に出すのは危険だから一度訓練場は経由してもらわなきゃなんだけどね)
しばらく考察した後、再び笑顔を作るルミア。
「はい、結構です。依頼を受ける前に依頼を受けられる技量があるかどうか、訓練場にて戦闘能力の確認を行いたいのですがよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です!」
「では最後に、パーティに仮申請していただきますね。これは訓練場の指南役が合格を出せば受理されます。こちらで申請を送るので緑色の承認を押していただければ結構です(返事かわいいなぁ)」
一連の修太郎の返事に癒されながら、ルミアは緩んだ顔でそれらを送った。
パーティ参加申請が届き、修太郎は不慣れな動きで承認を押す――その姿を、頬杖をつきながらルミアは愛おしそうに見つめている。
(今まで色々な子を見てきたけど、この子は特に可愛いなぁ。汚れを知らないっていうか、スレてないっていうか……)
受付嬢にはあるまじき格好なのだが、親戚の姉にでもなった気分でいる彼女。修太郎の愛らしさに緩みきった表情は、自分のもとへ戻ってきた〝プレイヤー情報〟を見た事で、一気に驚愕へと変わった。
修太郎 剣士 Lv.31
(レベル31!? かなりやり込んだβ組だったって事?! いままで見かけなかったからソロで活動してたの? なんにしても……)
ルミアは再び営業スマイルを作る。
「あの、ギルド参加は本当にお考えではありませんか?」
「はい、今は!」
変わらず元気のいい返事が戻ってくる。
今度は露骨に残念がるルミア。
レベル31ともなれば、所属人数4000人を超えた紋章ギルドでもトップクラスの実力である。
とはいえ、今ここでいくら勧誘したところでこちらの〝魅力〟が伝えられない事には説得のしようがないな――と、ルミアは気持ちを切り替える。
「それでは手続きはこれで以上です。建物を出て右手にある施設にいる戦闘指南役に話を通してありますので、行ってみてください」
「はい、ご丁寧にありがとうございました!」
そう言って一礼し、修太郎は駆け去っていく。
ルミアは笑顔でそれを見送りながらもう一度、修太郎のプレイヤー情報を確認するのだった。