043
巨人の国――アルヴォサ
岩と炎の大国アルヴォサの、武器を積み上げ作られた玉座に巨人は座っていた。
その玉座はガララスが滅した国の王が持っていた武器。
武器の数は勝利の数、
武器の数は強さの証、
全戦無敗の王――
それが巨人族の王、ガララスである。
遥か奥の扉まで続く赤色の絨毯。
それに沿うようにずらりと並ぶ家臣達。
かつての好敵手達を全て束ね絶対の王となったガララスは、苛つく様子を見せながらある報告を待っていた。
(今に見ていろ……)
その目はかつての野心の炎が宿っている。
組まれた足がユサユサと揺れ、グラスに注がれた赤色の酒に波紋が拡がる。
「王様! 例の者を連れてまいりました!」
「そうか、そうか! よくぞ来た!」
膝をついて首を垂れる家臣に向け、上機嫌に手を叩くガララス。やってきた頭巾を被る巨人族を眺めながら、勝利を確信し酒を一気に飲み干した。
連れられた巨人族が手をかざす。
ガララスの目が大きく見開かれた。
そして一方、不死の国――
修太郎によって作られた城の頂に、白の少女が座っていた。
ひしめくアンデッド族を見下ろしながら、コミュニケーションが取れる数少ないアンデッドである死の魔法使いの帰りを待っていた。
右手の指先で、白の玉座をカツカツ叩く。
その顔には少なからずの苛立ちが伺えた。
何も言葉を発さぬまま、奥の扉を眺める。
(あれさえ見つかれば……)
冷徹な瞳が揺れる。
重厚な扉が音を立てて開かれてゆき、その奥からボロのマントを着た浮遊霊――リッチが現れ、バンピーの前に傅いた。
「例ノ者、見ツケマシタ」
「そう。下がっていいわ」
それを聞き、立ち上がるバンピー。
リッチと入れ替わるようにやってきたのは、不気味に泡立つ不定形の塊。その姿を見たバンピーが言い放つ。
「固有スキルを見せなさい」
不定形の塊――スライムが黒い光を放つと、バンピーの目が見開かれた。
二つの世界、
二人の魔王が同時に叫んだ。
「「それじゃない!!」」
城内が割れるような怒号が響く。
頭巾の巨人はその手を好きな形に変形させる《変形手》のスキルを持ち、不定形の塊は自分の色を変える《変色》のスキルを持っていた――それは、二人が求める《形状変化》の固有スキルとは程遠いものだった。
人の形でありながら人外に近いバンピーとガララスは、目立つからという理由で同行を見送られそうになった過去がある。
しかし、主の従えるあの黒のスライムのように形状変化があれば、自分達も等しく同行の権利を得られる――二人はそう考えていた。
ならばと探した《形状変化》のスキル持ち。
しかし、レアスキルである形状変化を持つ者は未だ現れず、そのスキルを習得し同行しようと画策するバンピーとガララスは怒りのあまり叫ぶ。
「「スキル持ちはどこだ!!」」
その悲痛な叫びが主に届くことはなかった。
* * * *
バートランドとの修行を終えた修太郎。
現実時間にして約一ヶ月もの間、じっくりと戦闘訓練を積んでいた。
「いよいよですね」
「うん。できることはしたもんね」
王の間に集まる四人の魔王とその主。
執事服が代表して修太郎の護衛につくが、あくまで待機場所はフィールドの上空。プニ夫も今日はお留守番であり、都市内に入れば修太郎は完全な一人となる。
「主様、くれぐれもご用心を」
「心配しないで、セオドールに貰った防具もあるから」
心配する銀髪の美女に対し、新しく装備した革の鎧をポンと叩きながら答える修太郎。不安は拭えないまでも、渾身の装備を送れた黒髪の騎士は満足そうに頷いた。
「主様、戻ったら妹にも土産話聞かせてやってください」
「うん! それはもう必ず!」
修太郎の言葉に、金髪の騎士は照れ臭そうに感謝の言葉を述べる。
修太郎はエルロードに目配せすると、ダンジョンメニューから〝地上に出る〟ボタンを探し、それに指を近づけた。
「じゃあ、いってきます!」
直後――二人の姿が消え、王の間に静寂が落ちる。
残された三人の魔王は、この場に遅刻したバンピーとガララスの席を見て、呆れるように溜息を吐きながら自分の世界へと戻っていった。




