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211話

 

 遺跡のはるか上空では、人智を超えた激しい撃ち合いが繰り広げられていた。


『裁キヲ――』


 夥しい量の剣がエルロードの周りを囲い込み、貫くように迫っていく。


「『時の番人』」


 目前まで迫る剣の雨にも動じず、エルロードは掌の上で懐中時計のエフェクトを回す。本がパラパラと捲られてゆき、どこかのページに栞が挟まった。


「『空間掌握』」


 エルロードの周囲が捩れるように歪んだ。

 迫る剣がピタリと動きを止め、その全てがくるりと向きを変える――そして弾かれるように、天使に向かって放たれた。


『神ノ盾』


 音もなく現れる巨大な盾。

 エルロードが面倒そうに目を細めた。


 剣達は盾に触れることもできず、反発する磁石のように吹き飛ばされ、地面に降り注ぐ。


(なるほど。そういう技もありますか)


 エルロードがグッと手を握ると、剣達は手の動きに合わせて押し潰されてゆき、やがて全てが粉々に砕け散った。


「神の盾とはまた仰々しい。その神とはいったい何を指しているんです?」


 鼻で笑うようにそう尋ねるエルロード。

 天使はのっぺりとした顔で彼を見た。


『我等ガ仕エシ主ダ』


「まるで答えになってませんね……」


 天使の両翼が激しく光り、無数の光線が放たれた。コンマ数秒でエルロードへ到達するも、見えない何かによって折り曲げられ、天空へと弾かれてゆく。


「今頃あれに神とやらが当たっているのでは?」


 嘲笑うように天を指しながらエルロードが言う。

 天使は不気味にただ滞空を続けていた。


(主を侮辱しても冷静。どんな関係性なのでしょうか)


 エルロードはつまらなそうに再び本を捲ると、どこかのページに栞を挟む。


「彼女の友人達はどこへ?」


 彼女とはつまりケットルを指している。

 しかし、天使がそれに答えることはなかった。

 おもむろに剣を愛でるように手でなぞり、まるで覚悟を決めたように向き直る天使。


『ヤムヲ得ン』


 ポウと、二つの武器に光が灯る。

 楔文字にも似た羅列が脈動するように点滅し、それは天使の体にも現れると、周囲の空気がビリビリと震えだした。



『断罪者権限執行』



 突如――空に、それも世界全体を覆うような規模で楔文字が浮かび、広がる。

 まるで巨大なコンピュータに電源が入ったような、蜘蛛の巣を張り巡らせるようにして、光の線が空一面を走り抜けてゆく。


 フッと、天使の体が消えた。


「!」


 現れたのはエルロードの目の前。

 腕を掴むようにして天使が手を伸ばす。

 エルロードを包む結界に手が触れた刹那――結界にヒビが入り、音を立て崩れてゆく。


「……」


 天使の手が右腕に触れる――と、触られた先から、まるで消去されるように、エルロードの右手がなくなってゆく。

 反射的に距離を取りながら興味深そうに傷口を観察するエルロード。消された右手は、腐り落ちていくように、じわじわと侵食しながら残りの部位をも腐らせていく。


(今までの攻撃とはまるで性質が違う)


 冷静に右腕を途中から切り落とすと、すぐさま青色の布が折り重なるようにして右腕を包み込み、一瞬にして元通りになった。


(LPは削れていませんね)


 彼の特性上(・・・)、減るのはLPではなくMPからになるのだが、とある魔法(バフ)の効果でMPの数値は無限数となっている――したがって、彼を倒すための最低条件は〝無限数を上回る攻撃を一撃で与え、かつLPも0にしなければならない〟となるのだが、天使の攻撃はその条件を無視し、倒すだけの可能性を秘めていたようだ。


 エルロードは心の中で、その不可思議な攻撃特性を、序列第二位バンピーの固有スキルに近いものだと断定した。


『ソノチカラ、放置スルニハ強大過ギルナ。貴様ラト、ソノ主デアル罪人ハ消サネバナラナイ』


 無機質な声でそう呟く大天使。

 エルロードの表情が明らかに曇った。


「……()が主を消すと?」


 エルロードの周囲に濃密な魔力が逆巻く。

 天使はそこで初めて、目の前の存在が〝恐ろしい〟と感じた。

 今までの攻防はエルロード(相手)にとったらまるで遊び――実力のほんの一片も見せていない、ということに気付いたのだ。


()メ、厄介ナ事ヲシテクレタ。シカシ、所詮ハ籠ノ中ノ鳥』


 誰に言うでもなくそう呟く天使。

 エルロードの瞳が怪しく光った。



「極域魔法 初級――火の玉(ファイアボール)



 放たれたのは何の変哲もない火の玉だった。

 初心者魔法使いが最初に覚える魔法。

 速度も大きさもソレと全く変わらない。


『ソノチカラ、マサカ……!』


 しかし、天使が焦った様子で構えると、空と体に刻まれた楔文字が収束するように戻ってゆき、再び盾と剣を形成した。そしてそのまま神ノ盾を構え、幾重にも防御魔法を展開する。


 ふよふよと飛んでいく火の玉。


 防御魔法の一層目と接触し――

 火の玉は何の抵抗もなくそれを通過した。


『!』


 単に通過したのではない。

 防御魔法を突き破ってもなお、勢い・威力が落ちていないのである。


 受け切るのを諦め、盾を置いてその場から退避した天使の判断は正しかった――なぜなら火の玉は、そのまま全ての防御魔法を通過すると、無敵を誇った盾を貫き、尚も真っ直ぐ飛んでいるのだから。


「お返ししますね」


 逃げた背後にエルロードがいた。

 天使は再び神ノ盾を展開する。



「極域魔法 初級――風の刃(ウィンドカッター)



 一閃――

 鋭い斬撃音と共に天使の体がズレる。

 天使の体がポリゴンに包まれてゆく。


『ソウカ、貴様ラハ〝イレギュラー〟カ……でも、皆さんのことは覚えましたよ』


 急に流暢になる言葉に、エルロードの眉が僅かに動く。


「もう一度聞きます。彼女の友人達はどこへ?」


 消滅していく中で、天使はクスクス笑った。


「ご安心ください。消えてはいません。ただ死んだだけ(・・・・・)です」


 それだけ言い、天使の体は完全に消滅した。

 鮮やかな光の粒子が降り注ぐ中、エルロードは先ほど触れられた右手を見つめていたのであった。


 

 精霊の祈りと大規模侵攻の謎


 主のために変わり始めた魔王達

 

 ケットルを攫った天使という存在


 天使の言う罪とは何か――



 第五章 完結


あとがき


波乱の五章完結です。


鬱展開に風当たりの厳しいなろうで、こういう展開にするのはすごく勇気のいる決断でしたが、貫き通してみました。


ショウキチ達の展開はこの小説の構想段階で考えていました。

気付いた人恐らくいないと思いますが、

第101話のクエスト名と依頼主名が色々とリンクしてます。


五章の主人公といえるポジションは、バンピーとガララスじゃないかなと思います。ガララスの過去編も五巻に収録されてますが、そういう意味ではガララスがメインだったと言えるかもしれません。


心が荒んだ修太郎を救うべく魔王達が各地に散らばって世直しみたいな展開がずっとやりたくて、特にマグネちゃんがいいキャラになってくれたので満足しています。第六章も、ガララス×マグネ組はもちろん、ワタル×バートランド組やベアライト×プニ夫視点も書いていくつもりです。


第六章の展開ですが、これでチュートリアルが終わったので、修太郎(プレイヤー達)が倒すべき敵とか、ギミックが難しくなっていくエリアとか、エリアに影響を及ぼすボスとかを攻略していく話を構想しています(ようやくRPG的な話が書ける…)


引き続きお楽しみくださいませ。


もしよければ、↓の評価を★5にしていただけると執筆の励みになります。よろしくお願いします。


ながワサビ64

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いまだに101話の謎が解けない… [一言] 更新待ってます
[良い点] 面白い一気見してしまった [気になる点] これは結局神が敵なのかね じつは主人公の仲間のラスボス集めてるやつがかばっててとかない? とにかく先が気になる [一言] 待ってるで
[気になる点] 確かシルヴィアを城に閉じ込めた存在が闇の神の名前でしたっけ?となるとここまでの状況から、デスゲーム終わらせる為に倒すべき「彼」とは光の神のことなのかなぁ。そして闇の神を護る精霊を3体倒…
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