199話
白蓮を送り届けたミサキと誠は、カロア城下町に向かうための仲間集めを行なっていた。
先の大規模侵攻によって経験値を得たとはいえ、二人で三つのエリアを超えるのは無謀が過ぎるというもの。
同じ境遇、同じ目的で甲鉄城から出発できないプレイヤーが望ましい――それが回復役だったら最高といったところか。
「こんな時間に誰かいるのか?」
「見た限りそれなりには……」
ミサキのスキルは周りの生体反応をマップに反映させる効果を持つ。町中を動く青い点がプレイヤーを指しており、その場所に向かえば誰かしらには会えるのである。
(フラメさん達に言って第二便を結成するべき……? いや、あちらも復興と攻略に忙しくなる。頼っていられないよね)
といっても空振り続きで流石にそろそろといった頃――目の前から2つの〝赤い点〟が向かって来る事に気がついた。
サンドラス甲鉄城には今、城壁がない。
つまりモンスターが簡単に入れる状況なのだ。
「誠さ……!」
反射的に弓を抜いたミサキは、暗がりの中からやって来る二人組――バンピーとセオドールを見て武装を解いた。
「お二人共! まだ残っていらしたんですね!」
「主様の命でな。この拠点の防衛を任されている」
誠も二人の実力は戦場で見て知っているため、そりゃあ心強いと安堵した。特に白蓮の肩の荷が軽くなったことが嬉しかったようだ。
「ミサキ殿はこんな時間になにを?」
「実は……」
ミサキは全く戸惑うことなく二人にことの経緯を説明していく。彼女が人に頼る姿を初めて目の当たりにした誠は驚いていた。
「そうか」と、セオドールは黙り込む。
仮にミサキ達が今から捜索に向かったところで、主様達が先に見つけて終わりだろう――と、そう考えたが口に出すのを止めた。
隣のバンピーに動きがあったからだ。
「妾も同行するわ」
その言葉に一番驚いたのはセオドールだ。
「……主様の命令はどうするつもりだ?」
「貴方一人でも事足りるでしょう」
「それは、そうだが……」
特に従順な彼女が命令に背いた行動を取ったことに、セオドールは少なからず驚いていた。
バンピーは続ける。
「妾が探し出せば、きっと褒めていただけるわ」
それが目的かと腑に落ちたセオドール。
困惑するミサキと誠に、バンピーは冷たい表情を向ける。
「それでいいかしら?」
「あ、はい! 喜んで!」
ミサキからすれば異論なんて無かった。
バンピーがいれば回復役なんて必要がない。
「(おいおい大丈夫なのか?)」
「(あのお二人は信頼できますから)」
ヒソヒソと何かを言い合ってる二人を尻目に、セオドールはバンピーに歩み寄る。
「なら、ここは俺が責任を持って請け負おう」
「よろしくお願いね」
虚空を見つめる彼女に、少し言い淀んだ後、セオドールはこう付け加える。
「頼んだぞ」
今度はバンピーがセオドールを見た。
そしてらしくない彼の顔を見て、少しだけ驚いた。
「……なによ急に」
「ケットル殿の安否には主様の今後がかかっている」
セオドールとて何も感じない訳ではない。
主の召喚獣として、短いながらも旅を共にしてきた仲間の死と、消息を絶ったケットル。
彼等に囲まれ旅をする中で、人間の温かさというものを確かに感じていたのだ。それは、主を理解する上で、とても大切な経験・感情に思えた。
バンピーがミサキ達と旅する中で何か感じるものがあれば――と、セオドールはそこまで考えたのち、ミサキ達に向き直る。
「バンピーは飛べんからな。出発は早いほうがいいだろう」
そう言いながら、セオドールは誠に銀色の盾と剣を渡した。
「たまたま余っていた物だ。旅の助けになるだろう」
受け取った誠は、その軽さと性能に驚くことになる。
「悔いのないようにな」
誠に向け微笑みかけるセオドール。
誠はじわりと溢れる涙を乱暴に拭きながら、力強く頷いた。
「置いていくわよ」
遠くの方で声がする。
見ると、既にはるか先まで行ってしまっているバンピーの姿があった。その間も彼女は歩みを止めることなく、スタスタと北門へ向かっているのが見える。
「ま、誠さん! 行きましょう!」
「お、おう!」
慌てて出発する二人。
セオドールは、姿が小さくなって見えなくなるまで、その場で三人を見送ったのだった。