表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/211

171話

 



 不自然なほどに長く歪な形の穴を、三人と三匹が音もなく駆け降りてゆく。


「なんだこれは……」


 斥候達は穴の終わりを見下ろし、戦慄した。


 眼下に広がる漆黒の闇。

 真夜中よりも暗く、そして冷たい。


 闇の中で蠢く強者達の気配。

 その数を計り知ることはできない。


 ここまで来てなぜ気付かなかったのかと、斥候達は自分の能力の低さを責めた。なぜなら城内にいる者の気配は、自分が倒してきたどの敵よりも圧倒的に強かったから。


「ラオファン……」


「行くしかないだろ。そうなってる(・・・・・・)んだよ」


 と、隊長格の斥候が真っ先に穴から降りた。

 長い滞空時間の後、城へと降り立つ。

 遅れて小さな物音が背後から続いた。


「国の平和を脅かすモノは放置できない」


 そう呟きながら隊長格の斥候――ラオファンは辺りを見渡した。


 ダンジョンはNPC達にとって珍しいものでもなかった。

 それは侵攻と同程度に認知された〝災害〟的なもので、その性質上守備的なために、侵攻ほどの脅威にもならない。


 穴の上から観察した限り、このダンジョンは一般的な〝アリの巣タイプ〟とは違い、何の目的か巨大な城の形をしているようである。


 城があるなら、その主はさしずめ王か。

 ラオファンは皮肉っぽい笑みを浮かべる。


「見たところ入り口付近には罠がありませんね」


 警戒した様子で他の斥候がそう呟く。

 自分の城に無粋なものは置かない。そういう意味なのかもと、ラオファンは深読みした。


 主によってダンジョンの姿は様々で、罠が極端に少ない場合、主のプライドが異様に高いという傾向にある。

 ダンジョン内にいる配下達の実力、あるいは自分の武力に自信があるか。

 

「穴蔵のヌシ風情が王とはな」


 闇夜のルファ達は毛を逆立てて何かを恐れていた。


 未知なる脅威に震えるのは斥候三人も同じことだが、体で分かっていても、頭で分かっていてもなお、彼等は自分達の役割(・・)に抗うことはできない。


 先頭をラオファン、後ろを二人が固めた。


 隅々まで掃除が行き届いた城内には、赤色の絨毯に金の刺繍で何かの模様が描かれていた。それを見たホリヴァイは豊富な知識から〝王を意味する言葉〟だと悟り、深いため息を吐く。


「城内にすら罠が無いとはな……」


 ここまでのダンジョンは珍しい。

 こうなると武力と武力での戦いである。


 斥候の役割では戦闘は二の次。

 主な仕事は罠の解除、索敵、目的地へのルート確保である。

 

 ラオファンはここで、先にケールトンのモンスター達に暴れてもらい、その間にダンジョンコアを探すのが得策だと考えた。


 後続組(ケールトン達)へと合図を送った、その時だった――


「まさか……王自らお出迎え、か?」


 短剣を抜き放ちながら、ラオファンは遠くを睨んだ。

 長い長い廊下の先から、金属が擦れる音と共にモンスターが現れたのだった。


 ひと言でいえば、豪奢な鎧を着た大男(或いは女)。

 黄金を彷彿とさせる煌びやかな金属の板金鎧に、見事な装飾が施されている。


 長剣と盾も同様で、さながら高名な騎士のよう。

 顔はヘルムで隠れて確認できないながら、その奥に怪しく光る青の瞳がひとつ――隻眼か? と、ラオファンはそんなことを考えていた。


 相対すれば嫌というほど伝わる存在感。

 歴戦の強者のソレを纏った格上の存在。


 コレがこの城の頂点に違いないと、

 戦慄の中でラオファンはそう確信した。


 背後で続く落下音と雄叫びのような声――それが後続組のモンスター達だと分かると、ラオファンは半歩後ずさって笑った。


「総力戦といこうか、穴蔵の王様」


 コアが破壊されればダンジョンは終わる。

 が、主を破壊してもそれは同じことである。  



*****



 戦闘が始まってしばらく経った。


 穴の上から様子を伺う冒険者ホリヴァイは、ケールトンからの突撃命令を待っていた。


「妙だな……」


 訝しげに目を細めるケールトン。


 先ほど現れた騎士とモンスター達の激突後、どういう訳か斥候達も戦闘に加わっているではないか。作戦通達時にはなかった動きだが、ここから推測できることは只ひとつ。


 あの騎士こそダンジョンの主、ということ。


「作戦変更だ。あの騎士を倒せばダンジョンが破壊できる」


「そうですか。なら分かりやすくていい」


 他の冒険者がそう頷く。

 ホリヴァイは眼下で繰り広げられる戦闘を見ながら、いち早く違和感に気付いた。


(あの大群が押し返されている……?)


 騎士が剣を振るうたびに、モンスター達が紙屑のように吹き飛ぶ。

 一度は城内に入った斥候およびモンスター達が、再び回廊部分へと弾き出されている。


 体勢を立て直し、再び襲い掛かるモンスター。


 幸い30いた数はほとんど減っていない(一匹は奈落の底へ落下していったが)ため、騎士の攻撃力はそれほど高いわけではないようだが、攻めあぐねているのは事実だった。


「出るぞ」


 隣のS級冒険者が剣を抜き放つ。

 皆に続き、ホリヴァイも戦場に降り立った。


 両腰に備えた長剣を抜き、騎士と対峙する。

 聳える――というほどではないが、見上げるほどの体躯。


 装備は見たことのない装飾の鎧と盾。

 得物は肉厚の長剣だった。


 装備の質、技、存在感。

 祖国にいる騎士達よりもはるか格上。


「[貫く氷塊]」


「[捕縛する手]」


 魔法使い達が先行して魔法を放った。

 無数の手が騎士を縛り付ける。

 そして、巨大な氷塊が騎士の胸を貫いた。


 それを合図に斥候達の弓矢が乱れ飛ぶ。

 その間もモンスター達の攻撃は止まない。


「全弾命中!」


 誰かしらかの声を後ろに聞きながら、ホリヴァイは両手の長剣を構えて駆ける――総勢10名ほどの前衛達が騎士と激突する直前、聖職者達が強化の魔法を唱えた。


「[不屈なる意志][鋼鉄の体]」


「[研がれた刃][重撃]」


 盾役へは耐久値の上昇魔法を。

 攻撃役へは攻撃力上昇魔法を。


 湧き上がる力を感じながら、冒険者達の武器が騎士を穿つ。

 凄まじい金属音の後、前衛達は硬直した。


 その中の一人、ホリヴァイが違和感に気付く。


(攻撃が通らない)


 脅威はその凄まじい剣圧に非ず。

 真に恐るべきは――その耐久力。


 攻撃が全く通用していない。


 斬撃も、魔法も、毒も、呪いも、全て。

 総攻撃を受けてもビクともしない騎士。


 巨大な鉄塊、或いは大木の如し。



《Accompany Mob:ベオライトLv.120》



 ベオライト(・・・・・)とはよく言ったものだと、ホリヴァイは心の中で皮肉る。


 正に〝鉄壁〟。


 驚くべきは未だ盾を使っていない所か。

 単純な鎧の耐久力のみでこの硬さである。

 盾を構えれば更に硬度は増すということ。

 ホリヴァイは恐ろしさを感じ、身震いする。


 思いがけず長期戦の構えとなり、冒険者達の顔に焦りの色が見えた。

 騎士の反撃は死者が出るほどではない。回復さえ怠らなければ負けることはない――と、たかを括っていたホリヴァイは、ある事実に気が付いた。


 味方が凄まじい勢いで死んでゆくのだ。


(これも騎士の攻撃によるものか? いや、もっと別の何か……)


 ホリヴァイは飛来する何かを咄嗟に避けた。

 避けた先にいた冒険者にそれが当たる。

 黒色で、ネバネバした液体のようだった。

 冒険者は鬱陶しそうにそれを拭っている。


(これは……!!)


 ホリヴァイがソレの正体に気付くよりも先、冒険者が事切れた。

 液体が付着した場所は溶け、体が蒸発するように消えてなくなる。


「敵は騎士だけじゃない!! アビス・スライムがいる!!」


 ホリヴァイの言葉に周りは絶句した。


 アビス・スライム――スライム種の上位に位置する最強種のひとつ。それらは物理的な攻撃技をほとんど持たないながら、あらゆる属性への耐久性と、凶悪な属性攻撃を得意とする。


 アビス・スライム1匹の討伐には、S級の聖職者が最低でも4人必要とされている。それだけ倒すにも耐えるにも厄介な存在なのだ。


 総攻撃を仕掛けても無傷な騎士に加え、混戦に乗じてアビス・スライムが攻撃してきているとなれば、本来なら退却一択の絶望的状況であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] スライムが強いのいいぞぉ! [一言] ベオライトがなんのことかわからない……ゼオライトかとおもったけどあれそんなに硬かったかな? 無知ですいませんorz
[一言] 出てきたのか……凄いぞ!
[気になる点] ベオライトとは?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ