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雷鳥フェンダールの残りLPが62%となり、誠は大声を張り上げた。
「スイッチいくぞ!!」
その言葉を合図に、誠の体を幾重にも包む強化魔法。そして誠自身も防御スキルを発動させ、大盾を構えてフェンダールに向き直る。
「《弱者の灯火》」
それまでアルバを攻撃していたフェンダールは一変、誠へと標的を変え鋭い鉤爪を振り下ろす――誠は大盾でそれを受け流しつつ、さらにスキルを重ねてゆく。
「《俺を見ろ!》」
一連の敵視コンボによって、フェンダールの攻撃優先度はアルバから誠へと固定された。そしてLPが残り60%に差し掛かる寸前で誠の体に強化魔法が乱れ飛んだ。
フェンダール 残りLP60%
スキル 豪雷を発動!
天から降り注ぐ白の雷が誠の体を貫いた。
誠は何食わぬ顔でそれを受け切っている。
「完璧……!」
Cの回復役が歓喜の声を漏らす。
ボスは残りLPが20%ずつ削られる度に強力な反撃を行ってくる。だから盾役はそれに備えて敵視を変更し、万全の状態でそれを受ける。そして攻撃を受けた後はすぐさま回復を入れて立て直し、次は42%のタイミングでAへとバトンタッチするのである。
「回復厚すぎるかも! 気を付けて!」
誠の言葉にハッとなる回復役。
過度な回復は魔力の無駄である以上に、ボスの敵視を変えてしまう可能性があった。
先ほどは力の抜ける檄で場を和ませた誠だが、盾役として一流の働きを見せている――優秀な盾役のいるチームには余裕が生まれ、事故率がグッと減るのである。
「大したもんね」
呆れたような口調でそう呟く白蓮。
誠の堂々たる振る舞いに称賛を送っていた。
*****
残りLP――12%!
「残り火力での逃げ切り!」
アルバの声に皆が雄叫びをあげた。
残り10%で大技を繰り出す前の溜めを行う――そこを一気に叩くことで、この戦闘を終わらせることができるのだ。
ここで重要になるのは攻撃役達の「火力」。
「……私、前に進むよ」
そう呟きながら白蓮は杖を優しく撫でた。
頬から涙が伝い、杖へと落ちる。
杖には製作者「春カナタ」の名が刻まれていた。
杖を掲げ、凛とした表情でボスを見る白蓮。
白蓮の職業は「星紡ぐ魔法使い」
星の力を借り、魔法を使う者。
白蓮は流麗な動きで杖を振るう――杖先で形をなぞることで星座を意味する記号を描き、記号に準じた魔法が発動するのである。
踊るように記号を描く白蓮。
彼女が描くのはシステムに頼らない特殊な記号。
「残り3%だ!!」
誰かが叫び声を上げたと同時に、白蓮の動きがピタリと止まる。魔法陣のごとく描かれた複雑な記号が輝きを放った。
「《力ある者》」
魔法陣の奥からヌゥと現れた巨大な剣。
白蓮が杖を掲げると、剣もまた天へ伸びてゆく。
振り下ろされた刹那――
フェンダールの体は真っ二つに分断された。
残る3%のLPが一気に0となり、ボスの体は光と共に爆散する。
しばらくの静寂、
そして――。
「勝った……?」
誰かの呟きを合図に、割れんばかりの歓声が沸き起こる。皆のレベルアップを告げる音や画面に並ぶ報酬の数々は、その勝利が「現実」だと教えてくれた。
杖を突き出した形で止まる白蓮。
キラキラと舞い散るポリゴンの欠片達を見送りながら、達成感と同時に何か体が軽くなるような感覚を覚えていた。
『やったね晶』
『私の武器のおかげだよ』
どこからかそんな会話が聞こえてきた。
見渡した先には誰もいなくて。
「やったよ、私、私達。見ててくれた?」
その言葉にも返答は無かった。
白蓮の体を縛っていた「責任」は、シオラ大塔制覇によって僅かに解放された。それは彼女だけではなく黄昏のメンバー達にも言えることだった。
逃げずにこの場所と向き合い、そして乗り越えた彼等は過去をようやく精算することができたのだった。
柱を失いつつも成長を見せる元17部隊
友を失いつつも新たな目標を見つけた三人
巨悪を討ち、最前線へと想いを馳せる――
第三章 完結
あとがき
一年近くお待たせしました
これにて三章完結です。
三章にワタル・ミサキ視点がどうしても欲しくて、難産でしたが無事に完結できました。本当は途中に分けて入れるべき場面ですが、読み易さ重視でこういう形にしてみました。
>三章のボリュームはプロットの段階では二章よりも少ない想定です。
と、二章完結時に語ってたワサビでしたが、トータルしたら普通に二章の倍くらいの文量になってますね。白蓮やラオ達の掘り下げを丁寧にやり過ぎた感は否めませんが、結果的にまとまったので満足してます。
四章については、このデスゲーム化の根幹的な部分を見せていければと思ってます。
引き続きお楽しみくださいませ。
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ながワサビ64