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雷鳥フェンダールとワタルとの間に半透明のドームが形成されると同時に、チームAが一斉に攻撃を始めるのが見えた。
それを合図にボス部屋へとなだれ込むBとC。
枝分かれするように北西と北東へと向かう。
「とりあえず18%削るまではAへの集中攻撃のみだ! 後方にチビ雷鳥が見えたら優先的に攻撃! とりあえず削れ削れ!」
皆が雄叫びをあげ、攻撃が乱れ飛ぶ。
「(弱点は額の宝石だからこの場所じゃ難しいよね……)」
心の中でそう呟くミサキ。
Cに所属する紋章メンバーは全部で三人。
リーダー兼盾役の誠。
同じ第70部隊所属のミサキ。
そして――?
「当たるよ、ここからでも」
「えっ?」
いつの間にかミサキの隣にいたプレイヤーは、大弓をギリリと引き絞り、そして涼しい顔で放った。放たれた矢は真っ直ぐ雷鳥フェンダールの後頭部へと突き刺さったかと思えば、弱点への命中を表す《critical》の文字が踊った。
「凄い……!」
「貫通力のある矢とスキルを併せれば、どんな位置からでもクリティカルが取れるよ」
そう言いながら微笑む天草。
飄々とした物言いの細目の男。
以前誠が「紋章の戦力で5本の指に入る」と説明していた実力者だ。チームCにはミサキ達のほかに、何故か彼が配属されている。
「――!」
レーダーに追加の赤点が二つ。
ミサキは素早く反応し、対応する。
「小鳥沸い……って、はやっ」
体をぐるりと捻ったミサキが後方へと矢を射ると、沸いたばかりの小さな雷鳥が二羽、撃ち抜かれて爆散した。
「うほーーすごい! まるで曲芸!」
「……」
呑気にそれを眺めていた天草に対し、ミサキは少なからず苛立ちを覚えていた――皆が必死に戦っているのに、なんなんだこの人はと。
ミサキの心境などつゆ知らず、
天草は不敵な笑みを浮かべさらに続けた。
「なあなあ、僕も第70部隊に入りたいんだけど」
「……後にしてください。戦闘中ですよ?」
「こんな決まってるバトルに面白みも何にもないよ」
と、軽薄そうに笑う天草。
ミサキの額にでかでかと「怒り」のマークが浮かぶ。
「自分の部隊があるでしょう」
「皆辞めちゃったもん、僕以外」
「なら貴方に問題があるんでしょう。たとえ強くても問題のある人はパーティに必要ありませんので!」
そうハッキリと断るミサキ。
天草は「おお怖い」とまるで効いてない様子で、そそくさとその場から退散していった。
「(何なのあの人は……)」
苛立ちながらも、彼がやってのけた「背後からのcritical」は評価しているミサキ。そのままスキル《強撃》を発動しつつ――銀の矢を引き絞る。
「(宝石の真裏に中てるつもりで……!)」
スパッと放たれた銀の矢は美しい回転と共に雷鳥の後頭部へと命中――しかし、そこにcriticalの文字は出てこなかった。
「(少しでもズレたらダメなんだ)」
一度の試みで、天草の技量によってそれが成されたことに気付いたミサキ。彼のいた場所にチラリと視線を送った後、ミサキは再び戦闘へと意識を深く深く落としていく。




