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160 s

 

 シオラ大塔関連クエスト。


 なんの変哲もない畑から始まる一連のクエストを、総勢37人もの紋章メンバーがせっせと行き来していた。内容としてはお使いが多いが、途中戦闘もあるため完全に気を抜くことは許されない。


「すでにフラメさん達が鍵を入手しているなら受けなくてもいいのでは?」


 やる気のなさそうに呟くメンバーに、他のメンバーが白い目を向ける。


「お前ここまで来てそんなのも知らねえの? 損してんなぁ」


「んだよ、じゃあ理由教えろよな」


「エリアボスってのは他のモブより大量の経験値を落とすけどな、専用クエストの最後〝○○を討伐 0/1〟みたいなのを受注した状態で倒せば追加で経験値や金や装備まで手に入るんだぞ?」


 それを聞いたメンバーは「嘘だろ」と絶句しており、それを横目に見ていた誠は「なんであんなのが精鋭なんだよ」とため息を吐いた。


 ザックザックと畑を耕す誠。


 これは関連クエスト第二段階である「鳥に荒らされた畑の復興作業」で、約十数名が同じようにして畑を耕していた。


「(こういうのも気晴らしになるよなぁ)」


 畑作業に精を出す誠。

 隣で作業していたミサキが呟いた。


「白蓮さん、大丈夫だったかな」


 あの後、二人と別れた白蓮は明日の朝――つまり今日の朝にギルドメンバーを集めて諸々説明して謝るつもりだと語っていた。


 部外者とはいえギルドの方針に関与した関係者たるミサキは、そこに同席すべきだったのではないかと考えていた。


「きっと大丈夫だろ」


「そうでしょうか」

 

 モヤモヤが晴れず俯くミサキ。

 誠はジジ臭く自分の背中をぽんぽんと叩く。


「ずっと宿屋に引き篭もってたマスターを信じて待ってたメンバー達だぜ? そのマスターが再起して前を向こうとしてる。ならそれを応援しない訳がないだろ?」


 ミサキはしばらく沈黙した後、ようやく少し安心できたのか「そうですね」と笑みを浮かべた。それを見た誠は「やれやれ」と苦笑し、再び鍬を手に持った。


「俺らが、やる、べきは、昼までに、関連クエスト、全部を、こなすこと、だろッ!」


 と、より一層精を出す誠。


「そう、です、ねッ!」


 キョトンとしていたミサキも再び笑みを浮かべ、誠に感化されたのか、せっせと鍬を振り下ろしたのだった。



*****



 冒険者ギルド内にて――


「進捗はどう?」


 ガヤガヤと賑わう酒場の中で、何かを書き込むワタルがフラメに視線を送った。フラメは「ええと」と頭を掻きながらギルドメンバーのクエスト状況をスクロールしてゆく。


「大多数がすでに戦闘まで済ませてますね。予定通り昼出発で問題なさそうです」


「そっか、なら良かった」


 そう呟きながら、ワタルは書き物を続ける。

 しばらく難しい顔をしていたアルバが口を開く。


「やはりこのケンロン大空洞からシオラ大塔までの一連のクエストから読み取るに、地下迷宮のボスが一つの〝区切り〟なんじゃないか?」


 三人はMotherが示唆する〝クリアの条件〟に当たりをつけるため、過去のクエストや様々な情報からこの世界に用意された〝物語〟を推測していた。


 参考資料は実に膨大で、一番重要そうなエリア開放に繋がる関連クエストから、単純なお使いクエストまでをひとつひとつ確認しながら正解を模索してゆく。


「〝風の精霊の使いが〜〟って所ですか?」


「まあそうだな」


 それを聞いてフラメが何かをまとめた画面を二人に共有し、口を開く。


「ここから見てもらうと分かるように、イリアナ坑道のNPCからすでに〝精霊〟という言葉が確認できます。そして関連クエストで頻繁に目にするようになった精霊の情報を集めていくと、次の攻略エリアであるセルー地下迷宮を指しているように思えます」


 恐らく他のギルドの見解も同じですね。

 そう続けながらフラメはスクロールする。


「ただ関連クエストと思われた《風のお守り》クエスト――これは結局シオラ大塔とは無関係でしたが、ここではその風の精霊とやらの親玉について少し語られてます」


『風の精霊様の主たる者に睨まれてはならん。四大精霊の怒りを受けたかつての大国は今や海の底じゃ』


「重要な情報だね。〝四大精霊〟と〝主たる者〟」


 ワタルは興味深そうに頷き、

 トントンと画面を指で叩きながら続ける。


「motherのメールにあった〝三度目の死刻〟の()()に関連付けるのは強引かな?」


 難しそうな顔で唸るフラメ。

 私の意見も突飛ですが――と、話し始める。


「先に三という数字もあるのでその説は微妙ですね。ただこの四大精霊の怒りというのが町を滅ぼすトリガーで、滅亡のことを死刻と表すなら〝精霊達に三回滅ぼされたら我々は脱出できません〟という意味になりますけどね」


「それもかなり強引だな」


「だから突飛ですがって言ったじゃないですか」


 不満そうにアルバを睨むフラメ。


 今の所、集められる限りの情報ではこんなものであった。世界のエリアが〝あ〜わ行〟まであると仮定してもプレイヤー達は未だ〝か行〟にいる程度。ゲームクリアには程遠いのだろう。


「ともかく、次のボス候補の風の精霊は今まで以上に気をつけて挑む必要があるってことか」


 そう言って立ち上がるアルバ。

 そうですねとフラメも立ち上がる。


「とりあえずはシオラ大塔の攻略が最優先。無理なく一歩一歩、確実に先へ進もう」


 ワタルの言葉に二人は大きく頷いた。


 かつて最前線最速と謳われた黄昏の冒険者達を絶望の底に叩き落とした難関エリアへ――紋章が挑む。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん、時間加速で歴史を刻んで居ることをかんがえると、既に二回の死刻は訪れた後なのでは? そんで、プレイヤーたちが消えるもしくは取り込まれるのが3回目みたいな
2024/01/28 23:48 退会済み
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