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「私をパーティに?」
素っ頓狂な声でそう聞き返す白蓮。
ミサキは至って真面目な顔で頷いた。
「私達まだフリーなんですよ」
「え? いやいや、そうじゃなくてさ」
どうしてそんな話に?
と、困惑する様子の白蓮。
「だって、白蓮さんを戦場に引っ張り出す私にも責任がありますから。復帰させてハイさよならなんて無責任なことできないですよ」
紋章ギルドに所属したミサキだが、未だ正式に部隊加入はしていない。そこには自分のペースに仲間を付き合わせられないというミサキなりの気遣いがあったのだが、白蓮とならパーティを組んでもいいと考えていた。
ん? と、眉をひそめる誠。
「俺も?」
「え、ダメですか?」
目をぱちくりさせる誠。
ミサキ同様に、誠も第17部隊を抜けてから別の部隊に入隊していない。仮にパーティを組んで部隊申請をするのであれば、リーダーを決め戦闘訓練にて連携を見た後、正式に部隊として認められるのである。
「まぁ、俺はいいけどさ」
「やったあ!」
手をバンザイして喜ぶミサキを見て、照れ臭そうに頬をかく誠。苦笑を浮かべながら白蓮が口を開く。
「…… でも私相当なブランクあるし」
「大丈夫です! 一緒に訓練場で鍛錬すればかなり感覚極まりますから!」
ミサキが連日連夜訓練場で鍛えているという話を、シオラ大塔からの帰り道にて誠から聞いていた白蓮は、いきなりヒキニートにはキツいなと苦笑いを浮かべるも、ミサキの生き方に勇気をもらった身としては付き合いたい気持ちも大きかった。
「それに、私のスキルと白蓮さんのスキルがあればエリア攻略がすごく捗ると思います」
エリアの地形を丸裸にする千里眼。
敵の数と位置を把握する生命感知。
この二つが合わされば、ボス部屋までの最短ルートまで即座に導き出せる――白蓮が今できる償いが、より完璧に近い形にできる。
「でも黄昏の方はどうするんだよ。白蓮はあそこのマスターでもあるんだぞ」
「別にどっちがどっちに移籍するとかじゃないですよ。戦場に行くなら一緒にってだけなので」
「そういう問題かなぁ」
などと言い合いする二人を尻目に、白蓮は別の所で悩んでいた。
「(私の贖罪に二人を付き合わせていいのだろうか)」
そもそも自分には「黄昏の冒険者ギルドマスター」という居場所がある。もう活動していないとはいえ、自分を信じて待っていた残りのメンバー達と向き合うのが先ではないか。
「(散々待たせて、どのツラ下げて会えばいいんだろう……ううん。でもこれから逃げるのは絶対にダメだ)」
考えがまとまった白蓮は小さく微笑む。
「まずはこんな私を見限らずに残ってくれたメンバー達に謝りに行くわ。その結果どうなるか分からないけど――待っててほしい」
ミサキと誠は嬉しそうに頷いた。
後にこの出会いが大きな意味を成す――
*****
黄昏の冒険者 ギルドホーム
久方ぶりに集まった総勢24人のメンバー達だが、その表情は暗かった。
「遂に解散なのかな……」
「馬鹿野郎! 良い知らせに決まってるだろ」
「でもラオさんと令蘭さんもまだ戻らないし」
「V龍は来ないのか?」
「あいつ八岐に入ったよ」
メンバー達の会話はネガティブな話題ばかりで、暗い表情でその会話を聞くサブマスターkagoneは深いため息と共に時計を見上げた。
「(後2分後、かぁ……)」
カゴネ個人としては白蓮の復活を信じたい所だったが、昨日紋章のトップが訪ねた後に良い知らせは聞かなかったことで、彼女の中で色々な諦めがついてしまっていた。
思えば創立メンバーばかりに頼っていた。
先陣を切るラオや華麗に敵を倒す令蘭、手厚く支援してくれるテリアや装備作成によってメンバーの強さを底上げしていた春カナタなど、所属メンバーから絶大な信頼を得ていた四人。
そんな皆を一手にまとめる絶対的なリーダー。
実力で引っ張っていくようなスタイルではなく、不思議と付いていきたくなるようなカリスマ性と、ひとりひとりの側に寄り添う優しさで誰からも慕われる存在だった。
「今でも私は貴女にだけ着いて行きたい」
カゴネの頬を涙が伝う。
覚悟していた解散――
しかしその日を迎えるとやはりつらい。
サブマスターである自分には人を率いるような度胸も技量もカリスマもない。自分がもっとマスターに頼られるような存在であれば、創立メンバーのようになれれば或いは――そう頑張った時期もあったなと思い出すカゴネ。
約束の時間がやってきた。
しばらく空席だった壇上に人が登る。
「えっ……?」
カゴネは思わず目を擦る。
見た事ある人だった。
いや、ずっと見てきた人だった。
ボサボサの髪は当初のように綺麗に靡いていた。淀んだ瞳には活力が漲り、かつてシオラ大塔に挑んだ時の――春カナタが作った青い軍服にも似た防具に身を包み、壇上に現れた女性。
「皆、いままでごめんね」
慕われ憧れた頃の凛とした声が響く。
メンバーの多くが既に涙を浮かべていた。
「ただいま」
黄昏の冒険者 白蓮が帰ってきたのだ。




