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スキルは使えば使うだけ経験が得られる。
熟練のプレイヤーはシステムのアシストを切り、独自の動きやタイミングで自在にスキルを操るのだという。
一般的なプレイヤーを例にすると、職業に紐付けされた攻撃スキルの種類はそう多くないため知識さえあれば初期動作や状況で対策が取れる――が、アシスト無しのプレイヤーは「特殊なフェイント」や「不安定な体勢からの連続攻撃」など多彩な動きで翻弄することができるのだ。
そのトリッキーな動きは特に対人戦で無類の強さを誇る。故に多くの者が真似し、挫折する。
失敗が死に繋がるデスゲームという状況下で「実戦でシステムアシストを切った動き」に体を慣れさせるのは、ハイリスクローリターンと言える。特に切迫した戦況では間違いが起こりやすくシステムに頼るのが安牌であるからだ。
そんな状況下でも、システムアシストに頼らず活躍する者が、ごく僅かだが存在する。
システムを超えたプレイヤー。
彼等は〝天才〟と称されている。
知識に寄ったプレイヤーには、
天才は正に天敵と呼べる存在だ。
そしてここにも一人、天才の領域に足を踏み入れようとするプレイヤーがいた。
訓練場に走る光の線。
連射された矢がカカシを撃ち抜いた。
「角度の違いかな……もう一度」
ひとつため息を吐いた後、再び訓練開始を選択するミサキ。現れたカカシ相手に様々な体勢からの攻撃を試し、狙った場所に中てていく。
ゆうに6時間はぶっ通しの訓練――攻略最前線のプレイヤーでも、これほどまでにストイックに自分を鍛える者は少ない。
彼女はほとんど眠らない。
いや、眠れない。
「だいぶ慣れてきた、かな」
新しいスキルを覚えるたびに反復練習。
体に、頭に、魂に染み渡るまで――
彼女は天才でも秀才でもない。
ただ、それを補って余りあるほどの経験を重ねた。それを成したのは彼女の常人離れした集中力と使命感――セオドールから貰った「銀の武器」に恥じないプレイヤーになろうと努力し続けていた結果ともいえる。
「……?」
マップに不審な反応を見つけ、訓練中止を選択しその動向を見つめるミサキ。
青い点が町の外へと向かっている。
数はひとつ。足取りはゆっくりだ。
「(こんな夜中に一人で外に?)」
あり得ない話ではない。
たとえばエリアの調査を行う「斥候職」のプレイヤーは、身軽な動きに加え姿を隠すスキルで敵に感知されることなく、また罠の解除も行えるためボス部屋までの道に「どんな敵がどれだけ、どんな罠がどこにあるか」を調査するのが大きな仕事の一つだから。
敏捷に大きく寄ったステータスを持つ彼等の動きに付いていくのは至難の業で、なおかつ、他職プレイヤーが同行しては姿を消すスキルの邪魔になる。
上記の理由から、斥候職は一人或いは同系職数名でエリアに向かう事があるのだ。ミサキも何度か勘違いして通報し、仕事の邪魔をしてしまった経験があった。
「(でもあれは斥候の動きじゃないよね)」
見る限りでは、遭遇した敵と律儀に戦闘を行なっているようで度々足が止まっている。ソロプレイヤーだとしても攻略最前線のエリアに潜るのは無謀に近い。
ミサキはすぐさま「緊急事態」だと断定し、電話機能を開いて一瞬手を止める――この真夜中、攻略最前線のフィールドに一緒に出てくれる人が果たして何人いるのだろうか。
ギィと、隣の訓練室の扉が開く。
「あ」
「え?」
タオルで汗を拭いながら、誠が出てきたのだった。




