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四人がいた席を見つめながら首を振るアルバ。
「この期に及んでまだ競争気分か」
「仕方ないですよ。僕達は彼等に提供できるものが何もないですから」
いさめるように言うワタル。
「非戦闘民の保護をするギルドもいれば、最前線で脱出の糸口を探るギルドもあっていいと思います。先ほど八岐のマスターが言ったように〝混ぜるな危険〟というのも、あながち間違ってないと思います」
ワタルの言葉に、アルバは諦めたように溜息を吐く。
引きこもり勢からすれば、アリストラスを守った紋章は希望であり、逆に最前線組は自分たちを見捨てた薄情な連中である。
しかし、一刻も早く現実に帰らなければならないという事情を抱えた者も少なくない。独り立ちできない者を構っていてはゲームクリアなどいつになるか分からないのも事実。
結局、八岐もaegisもギルド合併はNOということだった。
「未だ先は見えていないというのに……」
何をもってしてクリアなのかも手掛かりがなく、クリアした所で脱出できるのかすら分かっていない中で、資源を奪い合い競い合うのは無駄だと考えるアルバ。
有益な情報もほとんど得られなかった。
結局自分達でどうにかするしかないのかと、アルバはうんざりした様子でため息を吐く。
「あの、さっきの合併についてなんですけど……」
ずっと黙っていた黄昏のサブマスターがおずおずと手を挙げる。機嫌を損ねているアルバが怖い顔で振り返ると、女性は短い悲鳴と共に手を下ろした。
「ああ、申し訳ない」
慌てて取り繕うアルバ。
女性は怯えながら再び口を開いた。
「私達的には正直……合併したいです」
「! 本当か!?」
喜ぶアルバに、ひきつった顔で頷く女性。
女性は俯きがちに「ただ……」と呟く。
「さきほどは体調不良と説明しましたが、うちのマスターが塞ぎ込んでから結構経ちます。今の私達はギルドとしてほとんど機能してなくて力になれるかどうか……」
彼女達のギルドは〝黄昏の冒険者〟
一時期は紋章に次ぐ大規模ギルドにまで成長しており、βテスト時代は比較的ライトなプレイヤーが好んで所属していた印象が強い。それだけギルドの雰囲気が評価されていたのかもしれない。
彼女は黄昏の冒険者の新サブマスター、
名前をKagoneといった。
有名プレイヤーも多く所属していた時代もあり、特に有名だったのがギルドマスターだ。
「シオラ大塔での一件は我々も認知してます。黄昏から抜けたプレイヤーの何人かは現在うちに所属してます」
ワタルが同情する様にそう言った。
カゴネは小さく頷き、唇を噛んだ。
「あの一件以来、主軸だったプレイヤーが死亡・脱退したのを皮切りに、マスターは責任を感じて宿屋に籠るようになり徐々に統率が取れなくなっていきました。メンバー達は他の攻略ギルドに移籍していきました」
かつて大きく賑わっていた黄昏の冒険者だが、人数も激減し今は活動休止中の小規模ギルドになっているという。
「情けない話ですが、今は我々のマスターに元気を取り戻してもらうことが先決です。合併の話はそれからでもいいでしょうか?」
カゴネの言葉に、アルバは力無く頷いた。
合併は望み薄だと確信したからだった。
*****
機械の兵士が闊歩している。
石造の道に鎧の擦れる音が響く。
しばらく無言で歩いていたワタルとアルバ。
アルバは先程の会話を思い出しながら、口を開く。
「戦場から離れたプレイヤーの再興か」
前例がないわけではない――とはいえ、ある種トラウマにも似た状態の人間を呼び戻すことなどできるのだろうか。
「かつての恋人を失った男も、武器を持つことすらできない重度のトラウマになったと聞く」
アルバは沢山ある中の例を挙げた。
ワタルは複雑そうに頷いてみせる。
「一度会ってみないと分かりませんが、ギルドメンバーからの説得でも回復しなかったのなら、部外者の我々にできることなんてほんの僅かです」
そう言いながらワタルは足を止めた。
夕日に照らされたそこは宿屋だった。




