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正に、英雄の凱旋といったところか。
カロア城下町へと戻ってきた修太郎達は、大勢のプレイヤーからの拍手によって出迎えられた。それは、解放軍の悪事が修道院で見ていたプレイヤー達によって皆に知らされていたからだった。
「あれ、ラオ達NPCに襲われないじゃん」
周りを見渡しながら不思議そうにショウキチが溢す。ラオは不満そうにショウキチの首を腕に挟みながら「攻撃されてほしいってことか?」と、力を込めている。
「でも、なんで?」
締め上げられるショウキチを眺めながら、小首を傾げるケットル。横を歩く怜蘭が、その疑問に答える。
「まぁこれは統括するのが人工知能だからっていうのもあるんだけど、要するにその殺人には〝悪意があるかどうか〟っていうのも、判断基準に入ってるみたいなの」
「正当防衛かどうか、みたいな?」
「多分そんな感じかな。でもカルマ値は変動するみたいだから、名誉は無傷ってわけにはいかないけどね」
殺人を犯したプレイヤーを殺すことは、むしろ名声としてNPCに評価されることがある。そのため今回、殺人役を担っていたArmaを殺したKの名声は恐ろしく上昇している。
ラオと怜蘭は名声こそ下がってはいるが、その殺人に悪意は無いため、NPCに攻撃を受けるような数値にはならなかった――という訳である。
「悪意がなければ殺し放題ってこと?」
「うーん、でも大量に殺しているのにそこに〝悪意がない〟って、人間としてかなり異常じゃないかな?」
ケットルの疑問に答えながら、到着したカロア支部の扉を押し開ける怜蘭――その直後、わっ、と群衆が感情を爆発させた。
中も大勢のプレイヤーで溢れ返っていた。そしてその全員が、新たに紋章ギルドに所属している事に気付く。
「お帰りなさい。無事に帰ってきて良かった」
受付にはオネエの戦闘指南役の姿があった。彼もまた、カロア城下町の緊急事態を聞きつけ単身で駆け付けていたのだ。
「ガルボちゃん達のことは、残念だったわね。それに約400名規模の大量殺人だなんて、未曾有の大事件じゃない」
悔しそうに拳を握るキャンディー。
Kも複雑そうに表情を曇らせる。
「でも、仇は討ってきた」
「そうね。騙されて死んでいった皆も、少しは報われたかもしれないわ」
そしてキャンディーはカロア支部に集まったプレイヤー達に目線を移し、言葉を続ける。
「貴方達の勇気や行動は、大勢のプレイヤーの心に響いたわ。特に今回、修道院でPKをされそうになったほぼ全員が紋章ギルドで尽力したいと申し出たわ――それも皆、修太郎ちゃんのお陰」
建物内に大歓声が沸き起こる。
修太郎は照れ臭そうに頬を掻いた。
Kも修太郎に頭を下げる。
「本当に、修太郎君のお陰だよ。君の尽力がなければ奴等の悪事すら暴くことができなかったのだから。きっと君ならあの三人相手でも問題は無かったんだろうけど、そこはアレ、俺達大人の仕事ってことにしておいてよ」
その言葉に、微笑みながら頷く修太郎。拍手喝采が起こると、修太郎は再びむず痒い気持ちで頬を掻いた。
キャンディーが申し訳なさそうに耳打ちする。
「修太郎ちゃんは紋章所属じゃないんだけど、要するに〝救われた命を何かに使って貢献したい〟って気持ちがこういう形で実を結んだみたいなの。貴方には個別にお礼するわね」
そう言ってウインクするキャンディー。
修太郎は〝個別にお礼〟の部分で怖気を覚えていたが、それ以上にキャンディーに向けた魔王二人の威嚇を制止するのに一苦労することとなったのだった。
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