表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/211

145 s

 


 ラオ視点――


 斬撃を紙一重で受け流すラオ。

 しかし第二、第三の攻撃が続いて迫る。


「流石は盾役、耐える力は一人前ですね」


 嘲笑うように剣を振るう解放者。

 体は闇を纏ったように真っ黒く染まっており、効果は不明だがそれが何かの技であることは明白だった。


「《闇の世界(ナイトメア)》」


 解放者の体から闇が放出される。

 それはラオの周囲を黒で染め上げた。

 解放者の体が徐々に薄くなってゆく。


「どうです? 私の固有スキルと相性がいいでしょう? これを得たいがために盗賊から暗殺者へと昇級したくらいですからね」


 方々から解放者の声がこだまする。

 周囲を警戒するように視線を動かしながら、闇の中でラオが糾弾する。


「こんだけ恵まれた固有スキルがあって、なんでそれを人殺しのために使ってんだよ!」


 解放者は失笑せざるを得なかった。

 この期に及んで時間稼ぎか――と。


「効率的だからですよ」


 吐き捨てるようにそう答えながら、ラオの真上を位置取った解放者は、黒の剣を逆手に持ち重力のまま正確に首を狙って落ちてゆく。


「屑が……!」


 ラオは斧を大きく振りかぶり、息を吸う。

 解放者の剣が首に届くその刹那――ラオの鋭い視線が、解放者の気配を捉えた。


「ハぁあああッッッ!!!!!!!!!」


 真上に向かって叫ぶラオ。

 その声は空洞内を切り裂いた。


 音の壁に当たり、吹き飛ばされた解放者は天井のないケンロン大空洞の上層階へと押し上げられる。はるか眼下にいるラオの姿を目視しながら、自分が受けた技が何だったのかを冷静に考えていた。


(なんだこの技……いや、固有スキルか? しかしLPは減っていない、? となると、盾役のスキルだな)


 しばらくした後、自由落下的に地面に向かって落ちてゆく解放者。とはいえ、地面に着く前に固有スキルか盗賊のスキル《猫の着地》を用いれば問題はない――しかしここで体に覚える違和感に気付き、目を見開いた。


(気絶状態だと?!)


 解放者はラオの攻撃に心当たりがあった。

 盾役の一般的なスキル《威嚇》である。


 相手の動きを弾き飛ばす効果を持つ威嚇には、タイミングさえ合えば稀に相手に《気絶》を付与することができる追加効果が存在する。そのタイミングとは正に〝相手が攻撃状態にある時〟であった。


 そして威嚇の威力は、あの巨体を持つキレン墓地の徘徊ボスのマンバルドをも弾き飛ばしたほどである。


 ラオは落ちてくる解放者を見上げながら、なおも戦斧を大きく振りかぶり溜め(・・)ていた。


「どれだけレベルを上げようとも〝落下ダメージ〟って基本的に一緒なんだよ」


 地面に叩きつけられた解放者。

 僅かに残ったLPは〝1〟だった。

 そのまま――ラオの戦斧が振り下ろされる。


「《渾身の一撃》!!!」

「ぐ、おおおおおおおおお!!!!」


 斧使いの攻撃スキル《渾身の一撃》は、溜めの秒数だけ威力が増す。その威力は、攻撃役よりも攻撃力の劣る盾役のラオが、レベル差のある解放者の防御力を突破してなお余力のある威力となっていた。


 解放者のLPは0となる。

 その体にヒビが入ってゆく。


「ふ、はは。お前も、お前の友人も終わりだ。お前達は私と百合香をPKをした。もう町へは入れまい」


 最後に捨て台詞を吐き、解放者は崩れ去る。


 ラオはそれを見下ろしながら「そんな些細な事で揺らぐような決心じゃねえよ」と、忌々しそうに答えた。



*****



 三人の姿を見つけた修太郎達は、

 シルヴィアから降りて駆け寄った。


「皆さん無事でなによりです……」

「修太郎君だけにカッコイイ想いさせたくなくてね」


 修太郎の言葉に軽薄そうに笑いながら答えるK。ラオと怜蘭に無言で威圧されたことにより、即座に真面目な顔付きとなった。


 修太郎からのメールを受け解放者達を倒すため先回りしたこと。そして、想定通り三人を倒したことを話すK――すると今度はケットルとショウキチが怜蘭とラオに泣き付いた。


「よがっだあああああ!!!」

「もうどごにもいがないで!!!!」


 二人の泣き声が空洞内に響き渡る。

 ラオと怜蘭は視線を合わせ、自分の胸に泣き付く子供達の頭を優しく撫でてやった。


「一時はどうなるかと思ったからね」


 泣きじゃくる二人の後ろ姿を見ながら、

 道中のことを思い出すバーバラ。


 相手は大量殺人を行なっていた高レベルのプレイヤーで、シルヴィアが解放者の〝匂い〟を見失ったことで合流が遅れたという理由もあり、不安感が増していたのだ。


『三人に倒されたから匂いが無くなったんだね』

『面目ありません……』


 途中のアクシデントの原因が分かり安堵する修太郎と、最後まで役に立てず消沈するシルヴィア。修太郎はシルヴィアの頭を撫でながら、Kに視線を向けた。


「俺には修太郎君が泣き付いてくれるの?」

「Kさんはなんか、色々心配無さそうですから」

「それちょっと悲しい、かも」


 肩を落とすKをバーバラとキョウコが笑う。

 合計370名もの死者を出した〝解放軍〟の蛮行が、ついに終結したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 既に指摘されてるけどね? 素早すぎる先回りといつ合流した?っていうね? 置いてったよね?
[気になる点] 無粋かもしれないんだけど 修太郎からのメールを受け解放者達を倒すため先回りしたこと。そして、想定通り三人を倒したことを話すK――すると今度はケットルとショウキチが怜蘭とラオに泣き付いた…
[一言] Kはともかく、二人は今後どうするかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ