139
「ま、待てって! 騙されてんだよ!」
「うるせえ! もう誰も信用できねえよ!」
止めるように声を上げるショウキチを睨みつけ、声を荒げた男性プレイヤーは仲間を連れケンロン大空洞の方へと向かう。
「着替えて追うにしても、無理か」
バーバラは自分の頭の上にあるプレイヤーネームと、その上にある〝ギルドネーム〟を見ながらため息を吐く。
解放者は紋章が弁解する時間を与えなかった――そのため、紋章ギルドのメンバーは無所属プレイヤー達をすぐに追いかけられない。
なぜなら〝無所属プレイヤー達を狩っているPK集団〟というレッテルを払拭できないからだ。
「追いかければPK扱いで反撃を受ける可能性すらある……やってくれたなアイツ」
怒りに任せ近くの木箱を蹴り飛ばすラオ。
紋章ギルドのメンバー達は何も出来ぬまま、その場に立ち尽くすしかなかった。残った数少ない無所属プレイヤー達も疑心暗鬼になっているようだった。
Kは深いため息を吐く。
「首謀者が誰なのかは明白かな」
その呟きに、動揺した様子で反応するショウキチ。
「え、誰なの?まさか本当に」
「十中八九、解放者だね」
ぶっきらぼうに言うKに、
怪訝そうな顔でケットルが尋ねる。
「決めつけていいの?」
「だって皆も学校で経験あるでしょ? オナラの音にいち早く反応して犯人探しする子。大抵その子が犯人って相場が決まってる」
バーバラは呆れた様子でKを睨む。
「支部長さん、それはちょっと……」
「それは冗談として、俺の予想は〝奴はこの混乱に深く関わっている人物である〟ということ。とはいえ、説得力のある材料を集める暇がないんだよね」
天を仰ぎ、深呼吸を一つ。
そして皆に向き直る。
「でも、だからって引きこもってられない。俺の予想が正しければ、解放者が誘導した〝ケンロン大空洞〟にも何かがある」
Kは周りの紋章メンバーを集め、
周辺のMAPを開いて語り出す。
「ここの北門を進むとケンロン大空洞。南門を進むとオルスロット修道院で、そこから進み続ければ大都市アリストラスだ。解放者に影響を受けたプレイヤー達はこのどっちかに向かってる」
バーバラ達はそれに頷いてみせる。
Kは険しい表情でさらに続ける。
「彼等がアリストラスに向かえば、非戦闘民の多くが確証のないログアウトにすがる可能性が高い。大至急でアリストラスと最前線にはメールを送ってあるから、何かしらの対策はしてくれるはず。後は俺達が追う形で二箇所に向かうかどうかだけど――」
「目的が最初から〝紋章メンバーの殲滅〟なら、追った先にこそ危険がある」
「そういうことだね」
怜蘭の言葉にKは頷く。
腕組みをするラオが口を開く。
「この全部がPK共の仕業だとして、最初から紋章を狙わず無所属プレイヤーを殺していったところに計画性を感じるな」
「そう、そこなんだよ。解放者にせよ誰にせよ、今回の件を首謀した奴には何らかの意図が感じられる」
Kの表情に影が落ちる。
「解放者の手品が本当なのか否かも確認のしようが無いし、それに、最前線でも活躍実績のある第6部隊を全滅させる〝何か〟もいる。この町で最も強かった部隊をもってしても倒せなかった相手に奇襲でも受けた日には、それこそ俺達も全滅しかねない」
「それには同意です。時間が無いとはいえ、無策に飛び出すのは危険過ぎる」
それに同意するバーバラ。
でも、出て行ったプレイヤー達をこのまま放ってはおけない――と、複雑な表情でKが語る。ショウキチは頭を掻いて大声を張り上げた。
「八方塞がりかよ! どうすりゃいいんだ!」
ショウキチの叫びがこだまする。
傍観していたキョウコが何かに気付いた。
「あれ、修太郎君は?」
Kを含めた第7部隊の面々がとっさにその場を探すも、そこに愛らしい召喚獣を抱いた少年の姿は無かった。




