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伝令はこの場にいる全員に見えるよう、映像を再生する――そしてそこに写っていたものは、特に紋章ギルドのプレイヤーにとっては信じ難い映像であった。
「ガルボ……さん?」
震える声で呟くバーバラ。
そこには逃げ惑うプレイヤーの悲鳴や怒号、撮影者の必死さも画面のブレによってリアルに伝わってくる中で、大剣を振るいプレイヤーを殺して回る第6部隊隊長のガルボの姿が映っていた。
「そんな、何かの間違いだ!!」
Kは伝令を糾弾する。
伝令が慌てて映像を止めようと手を動かした所で、静観していた解放者が声を上げた。
「最後まで流しなさい!! 我々にはそれを見る権利がある!!」
解放者の言葉に同調するように、無所属プレイヤー達からは野次にも似た罵声が飛び交う。
(やはりそう来るか……)
血が滲むほど強く唇を噛むK。
反論できず、映像を睨んだ。
歴戦の戦士を彷彿とさせる大男。
身の丈以上ある大剣を振り回す姿。
時に二人となって蹂躙していた。
そこに写っていたのは、
紛れもないガルボだった。
映像では他に狼型mobを召喚するgaga丸や、転んだプレイヤーを刀で斬り伏せるベッティの姿まで映り込んでいた――それを見た紋章メンバー達は、あまりの衝撃に言葉を失っていた。
映像が終わり、辺りが静寂に包まれる。
「嘘だ、こんなもん!!」
声を上げたのはショウキチだった。
「俺は見たぞ! 訓練場のPvPで正々堂々と戦って、負けたのに満足そうに笑ってたあのおっさんの顔! 映像だってある! そんな男が、こんな……逃げる人を後ろから……信じられるわけねえよ!!」
広場に響くショウキチの悲痛な叫び。
しかし、無所属プレイヤーには届かない。
「同じギルドの奴が何言っても擁護にしか聞こえねーんだよ! 実際こうやって殺してる映像があるじゃねえか!」
「そうよ! 私はガルボ隊長にお世話になったこともあるし信じたいけど、それなら納得いく説明してよ!」
プレイヤー達から次々と声が上がる。
しかし、ショウキチにそれを黙らせるだけの証拠はない。感情論でどうにかなる話ではなくなっていた。
「そういう目的か……」
Kは悔しそうにそう呟く。
視線の先には、解放者がいた。
「始まった、ということですよ」
歩み出る解放者。
プレイヤー達の抗議の声が止む。
「私腹を肥やす紋章ギルドによる、無所属プレイヤーへの選別が始まったんですよ! この地獄が始まった時に最初に声を上げ、人を集め、街を占拠し、人々を欺き操っているのは誰か! アリストラスを出るにもカロアを出るにも、紋章はまるで自分達が絶対の正義であるかの如く我々を管理している! そして従わない者には罰を与える選別――今回それが本格的に始まったのではないか!」
紋章ギルドを絶望の淵に叩き落とす、
解放者による演説が始まったのだった。




