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特別なイベントも無く、無事にカロア城下町へとたどり着いた捜索部隊。そのまま遺品を彼等の友人や恋人に渡したりと、諸々の手続きも終わった。
そして場所は変わり、
第7部隊は受付にいた。
「死んだ、んだよな。昨日助けて仲良くなった奴等が、死んだ。そういう世界なんだよな。簡単に死ぬ世界、なんだよな……」
ショウキチはうわ言のように何かを呟いている。バーバラ達はショウキチの精神面を心配しつつ、受付のKとの会話を再開させる。
「あのパーティがボス部屋で死んだと聞いたとき、真っ先に思ったのが〝やっぱりか〟だったんだ。リーダーが自信家で石頭だったからね、危うい要素はあったんだ」
何かの資料に目を通しながら言うK。
腕組みをしながら怜蘭が呟く。
「でも、弁えてはいた」
「そう、そこなんだよ。少なくとも他のメンバーは基本に忠実で無茶はしない。失敗こそあれど、しかしその失敗を全員で乗り越えていく――そんなパーティだったよ。うちに所属してはくれなかったけど、よく利用してくれてたから覚えてる」
寂しそうにそう語るK。
その表情が険しいものになる。
「誘い出された可能性があるね」
その言葉に、ラオと怜蘭が頷く。
ケットルは首を傾げた。
「誘い出された?」
「うん。例えば幻覚系固有スキル持ちだったり、単純な所で言えば装備品のトレードを持ちかけて外に引っ張り出して殺す〜みたいなやり口だよ」
説明し終えたKが受付から足を踏み出す――と、彼の背中に立派なマントがはためいた。
「PKの可能性もあるから、しばらくプレイヤーが町から出るのを規制しようと思う。ここは紋章の権限を使わせてもらう。僕はこれから全部の出入り口にメンバーを配置するよう手配するつもりだけど、皆はどうする?」
その問いに、激昂したショウキチが答える。
「俺は必要になったら戦うぞ! PKがなんだ、弱い人を殺して憂さ晴らしする卑怯な連中に負けるわけない!」
バーバラ達は何も言わなかったが、PK達の仕業ならこのまま野放しにはできないと考えていた。もちろん、ショウキチやケットル、修太郎をどうやって守ろうか――とも思考を巡らせているようだった。
ショウキチの肩にラオが手を置いた。
ショウキチの体が跳ねる。
「なら私達は怪しい人物が紛れていないか探してみようと思う。私と怜蘭は、少なくともβ時代にPKをやってた連中の顔と名前くらいは分かるし――戦闘はまあ、最後の手段だね」
小刻みに震えるショウキチの肩を優しく包み込みながら、ラオはニカッと白い歯を見せた。「心強いよ」と頷くK。
その時だった――
入り口の扉が勢いよく開け放たれたのは。
「支部長! ちょっと、一旦こっちに来てもらえますか!」
血相を変えて来たのは紋章のメンバー。
物々しい様子にKは一度バーバラ達に目配せしたのち、一行は駆け足で外に出た。
外には一つのパーティが紋章メンバー達によって囲まれており、腰に刀をさした男が怯えた様子で腕を掴まれていた。
「どうした?」
歩み出るK。
男の腕を掴んでいた紋章メンバーが口を開く。
「支部長、見てみろよこれ。この武器、紋章ギルドの精鋭専用の装備だぜ。そんでこいつらは無所属の野良パーティ。こんなもんぶら下げてたら、俺たちが殺しましたって言ってるようなもんだろう?」
「ち、違う! これは拾ったんだよ!」
男は必死に弁解する。
Kは紋章メンバーの方を睨んだ。
「傭平君、この刀を拾った時の映像とか見せてもらったの?」
「え、ああ、まだですが……」
「決め付けでPKに仕立て上げることがどれだけ危険か……お前、分かってんの?」
Kの剣幕に気圧され黙り込むメンバー。
Kは冷静な様子で男に尋ねた。
「拾ったというと、どの辺で?」
「エマロからカロアに向かう途中、修道院付近だよ。今日だ、今日の昼間! 信じてくれぇ! この刀が地面にポツンと落ちてたから、拾ったら性能がいいからって装備してただけなんだよ!!」
涙を流しながらそう語る男。
手に握られた刀には、紋章のマークが描かれていた。
Kはその刀をじいっと見つめ、観察する。
(カロア付近を拠点として活動する精鋭の中で、この刀を使っているのは――第6部隊のベッティだけだ)
Kは冷や汗をかきながら何かを操作し
「嘘だろ……」
と、呟いた。
その場にいた紋章メンバーに向け、
神妙な面持ちでKは何かの画面を掲示した。
ガルボ オフライン
gaga丸 オフライン
でん坊 オフライン
ベッティ オフライン
カグチ オフライン
「第6部隊が壊滅?!」
驚愕の声を上げるバーバラとキョウコ。
周りからは絶叫とも思しき悲鳴が上がる。
ラオと怜蘭の表情がより一層険しくなる。
「皆聞いてくれ、緊急事態だ。第6部隊が全滅した。彼等にはアリストラスとカロアの往復任務を任せていたから、単純なmobやボスという線は有り得ない。修道院付近にはmobが出ないし、侵攻の線も無い――となればもう、そういう事だ」
この町で最大の戦力たる第6部隊の全滅。
つまり、町の外にいるであろうPK達は、少なくとも第6部隊を殺せるだけの力量を持っているということになる。
それが人数差によるものか、純粋なレベルの差によるものかは不明だが、どちらにせよ重大な脅威だ。
方々からプレイヤーが集まってきていた。
そして紋章の伝令係が数人、駆け寄ってくる。
「報告! エマロの町付近にて無所属パーティ三つの壊滅を確認!」
「ほ、報告! ケンロン大空洞内にて無所属パーティの遺品を回収! およそ二パーティ分だとあります!」
「報告! クリシラ遺跡にて紋章第14部隊含む混同パーティの消息が途絶えました!」
次々と上がる絶望的な報告――そして
「目撃者によると、その、紋章の制服を着たプレイヤーによるものだと! にわかには信じられませんが……!」
騒然となる広場。
その場にいた殆どのプレイヤーが泣き崩れ、怒り、パニック状態と化していた。
「皆、こういう時こそおち、落ち着いて……」
ケットルの言葉は群衆の声にかき消される。キョウコはケットルの肩を抱いた。
「おや、皆さんお集まりになって。どうかいたしましたか?」
群衆の声がピタリと止んだ。
皆が視線を向ける先に、解放者が立っていた。




