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カロア城下町紋章支部。
壮大な昇級試験を難なくクリアした修太郎はシルヴィアとセオドールを従え、集合場所である紋章カロア支部付近までたどり着いた。
しかし、そこで初めて町の異変に気付く。
「あ、修太郎」
「お疲れ、修太郎君」
「二人ともこんばんは。これ、なんだろね」
「さあ? ワタルさんでも来てるんじゃない?」
ちょうど同じタイミングでショウキチとケットルと合流し、談笑しながら集合場所に向かう。そして集合場所には既にバーバラ達四人の姿があり、三人は駆け足で合流した。
バーバラ達の表情が曇っている。
気になった修太郎が尋ねた。
「これ、何かあったの?」
「ああ、三人ともこんばんは。ごめんね急に呼び出して。ちょっと話しておきたいことがあって」
そう言いながら、
一呼吸置いてバーバラが話し始める。
「あのね、キレン墓地に行ったパーティが、どうやら全滅したみたいなの」
パーティの全滅。
全員が死亡した――という意味である。
「それも私達も会ったことがあるパーティよ。ほら昨日、犬使いで苦戦してたあのパーティ」
「えっ!?」
驚愕の声を上げるショウキチ。
修太郎とケットルは言葉を失った。
「Kさんの所に〝パーティ全滅につきクエスト失敗〟って通知が届いたんだって」
キョウコは力無くそう言った。
〝まさか消耗した所で犬使いに遭遇するとは、占いが当たっちったよ〟
そう語りながら頭を掻いていた金髪の男の顔が、修太郎の脳裏を過ぎった。修太郎は悔しさのあまり、思わず下唇を強く噛む。
ギャラリーの中には解放者達の姿もあり、その三人組に視線を向けながら、バーバラは修太郎達に耳打ちする。
「(そのパーティが墓地に向かうのを見かけたって証言は何個か上がってるし、映像も残ってた。何よりあの解放者達は関与してないって答えたの)」
だからログアウトの線は薄いわ――
と、複雑な表情でバーバラが続ける。
「私とラオと怜蘭は、紋章の他の部隊と無所属プレイヤー合同で彼等の遺品回収に向かうわ。だから修太郎君達はキョウコとここで待っててね」
その言葉にショウキチが噛みつく。
「なんでだよ! なら俺達も行くぞ!」
「危険が伴うから言ってるの。ここに呼んだのは彼等と関わった皆に早めに知らせておこうと思っただけで、連れて行くつもりは無いわ」
厳しい口調で黙らせるバーバラ。
首元のネックレスが揺れる。
「現段階では〝何が〟彼等を殺したのか分かってないの。場合によってはPKの存在だってあり得るんだから」
「なら、なら行かなくていい! なんでそんな危険な場所に行かなきゃダメなの? おかしいよ」
不安げな表情で嘆くケットル。
今度は怜蘭が諭すように答える。
「可能なら遺品を持ち帰りたいんだ。危険を冒してまで行くべきかって疑問は尤もなんだけどね、私達が〝生きてた証〟って――死んだらその程度の物しか残らないから」
そう言いながら、視線を移す怜蘭。
そこには泣き崩れるように嗚咽する数人のプレイヤーの姿――彼等の友人や恋人達の姿があった。
「後は記憶と、ずっとオフラインのフレンド欄だけが残る。遺品はインベントリに入れておく限りは消えないし、それがせめてもの弔いの品になるから」
怜蘭は背中の十字架を模した大剣を撫でる。
そこには今は亡き親友の名が刻まれている。
そして、三人を含むレイドパーティ(30人)がキレン墓地へと出発した。修太郎達はただ、バーバラ達の帰りを祈るように待つしかできなかった。
「とりあえず、何か食べて気を紛らわせよ。ね?」
そう言ってケットルの手を引くキョウコ。
横目で遺品捜索部隊を見送りながら、
腑に落ちない様子でケットルが呟く。
「でも、やっぱりおかしいよ」
「どうしたの?」
そう尋ねる修太郎に、ケットルは「あのパーティとの会話を思い出してみてよ」と答えた。
〝出直します。そんで、遺品の武器はもう無くなったけど、ソイツが残した〝生きた証〟を繋ぐ気持ちで、また色々挑戦するっす〟
「私の目には、あのパーティは怜蘭に言われて完全に心を入れ替えてたように見えたもん。準備不足を指摘されたパーティが、昨日の今日でまたキレン墓地に行った――ちょっと変じゃない?」
ケットルの疑問は尤もだった。
修太郎もまた、同じ違和感を覚えていた。
「じゃあ、僕も今から合流して様子を見てくるよ。シルヴィアがいれば心配ないし」
そう言いながら、修太郎はキョウコに尋ねる。
「キョウコさん、いい?」
「うーん……まぁ、修太郎君ならいいかな。これがショウキチなら絶対許可しない!」
「なんでだよ!」
キョウコからの許可も取ったところで、修太郎は捜索部隊に少し遅れて、キレン墓地へと向かったのだった。