132
ロス・マオラ城――王の間
無事に昇級試験を終えた修太郎達がロス・マオラ城に戻って来ると、カムイとセムイは歓喜の声を上げた。
『ここが主様の城かぁ』
『強い気配をいくつも感じる』
それぞれがバンピーの肩に乗っており、側からみれば、白い少女の肩に乗った赤と青の小さな竜――という、まるでお伽話のような光景に映るだろう。
「主様。この子達には特に用事がない時、レジウリアに居てもらおうと思うのですがいかがでしょうか?」
バンピーの提案に頷く修太郎。
「そうしよっか。ただ、そのまま押し込めておくだけじゃ前の時と変わらないから、バンピーが度々行って面倒を見てあげてね」
「承知しました」
こうべを垂れるバンピー。
二匹を見ながら、修太郎が続ける。
「それから、カムイとセムイをレジウリアに入れるに当たって条件が二つ。一つは〝兄弟喧嘩をこれっきりにする〟という事。もう一つは〝カムイは朝と昼、セムイは昼と夜に空を飛ぶ〟という事。守れるかな?」
『ええと、それって……』
カムイとセムイは二つ目の条件についてピンときていないようで、可愛らしく小首を傾げている。修太郎が補足するより先に、セオドールが簡潔に述べた。
「常に光があるレジウリアに朝、昼、晩という概念を加え、作業能率を上げるのが目的だ。特に夜が来る事で夜行性種族およびアンデッド種族達の動きが良くなり、そのあいだ昼行性種族が休める」
『昼は己達両方が飛んでていいのか?』
「遺跡でやったように半々のまま維持すればいい」
セオドールの補足によって納得した様子の二匹。ニヒルな笑みを浮かべ、セオドールに目をやりながらガララスが口を開く。
「同じ竜同士、仲良くやれそうだな」
「こいつらは第二位の下僕。馴れ合うつもりはない」
そう言って、再び沈黙するセオドール。
修太郎は次にシルヴィアへと視線を向けた。
「シルヴィア、その……アイアンの様子はどう?」
「はい? 問題なさそうですが」
安心したように「そっか」と呟く修太郎に、シルヴィアは眉をひそめて言葉を続ける。
「主様。アイアンを私の世界に送ったこと、後悔してらっしゃいますか?」
「!」
修太郎の瞳が揺れる。
その反応は、肯定以外の何者でもない。
エルロードは睨みを利かせるも、シルヴィアを咎めるような事はしなかった。
「後悔や心配は理解できます。けど、今はアイアンをただ信じましょう。そして戻った暁には、労いましょう。奴にとって〝それ〟が何より糧になりますから」
そう言って、笑みを浮かべるシルヴィア。
彼女のその表情を見て、修太郎も同じように笑みを浮かべる。
天を仰ぐバートランド。
ふぅと煙草の煙を吐き、小さく頷いた。
****
「――ん?」
視界端の点滅する光に気付く修太郎。
それはメール受信を告げる点滅だった。
「夜分遅くにごめんなさい。緊急の用事があるからカロア支部に来て……って、なんだろ」
時計は夜の8時を指している。
修太郎は嫌な予感を覚えながら席を立つ。
「ごめん。シルヴィア、セオドール、今から出られる?」
その言葉に二人は無言で頷いた。
修太郎はプニ夫を抱いたまま、歩き出す。
「皆、今日はありがとう。僕たちはちょっと出てくるけど、疲れただろうから早めに休んでね。バンピーはカムイとセムイの事、よろしくね!」
そう言って、魔王二人とプニ夫を連れて溶けるように消える修太郎。
残された魔王達は「ありがとう」「疲れただろうから早めに休んでね」という労いの言葉を脳内で延々と再生させながら、各々の世界に戻ってゆく――バンピーは主のいた場所に深々と頭を下げたのち、二匹の竜を連れレジウリアへと向かったのだった。




