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陰陽の召喚士の幻影は天を仰ぎ、宣言する。
『こい、天竜カムイセムイ! かつて神と呼ばれたその力を存分に振るうがいい!』
不敵な笑みを浮かべ、勝ち誇ったように侵入者達を見やる召喚士。しかし、魔王三人はおろか、修太郎すらそれに驚く反応は示さなかった。
空から二つの影が落ちる。
それらは音も立てずに降り立つと、陰陽の召喚士に背を向けた形で、修太郎にこうべを垂れた。
「主様、お待たせ致しました」
「申し訳ありません。遅くなりました」
執事服と、白のドレスが揺れる。
修太郎は安心したように微笑んだ。
「おかえり、二人とも」
そう言いながら、修太郎はバンピーの両肩に何かが乗っていることに気が付く――それはまるで召喚獣時のセオドールみたく、手乗りサイズの赤と青の竜だった。
『カムイ、セムイ! なんだその姿は。なぜ賊の肩に乗っている! 貴様ら、主への忠義を忘れたか! よもや賊に屈服するなどと』
二匹が何かを理解し、声を荒げる幻影。
青色の竜――セムイがそれに答える。
『己達は高貴で残酷なまでに強いこのお方に忠誠を誓ったんだよ。幻影であるお前に従う義理も無いし』
赤い竜カムイが続ける。
『己達は死の王バンピー様、ひいてはその主たる修太郎様に忠誠を誓う。手も足も出なかったからな』
失った片腕を見つめるカムイ。
バンピーはエルロードを睨んだ。
「私の可愛い下僕に怪我させるなんて」
「殺さなかっただけ幸運だと思ってください」
あの時、降伏と服従を誓ったセムイの頼みを聞き入れエルロードに念話を飛ばしたバンピー。エルロードは即座に魔法の進行を止めているのだが、失った部位はそのままだった。
修太郎は二匹の竜に話しかける。
「はじめまして。修太郎です」
二匹の竜もまた、深々と頭を下げた。
『はじめまして、主様。この度はバンピー様の下僕となる事を許可してくださり、ありがとうございました』
『絶対の忠誠を誓うと共に、いついかなる時もバンピー様と主様に尽力いたします』
同じようにして頭を下げるバンピー。
紙一重で救われ、エルロードとは折りが合わなかったカムイもまた、バンピーの下僕になることを願った。そしてバンピーはその旨を修太郎に伝え、修太郎はそれを快く承諾した――というのが、事の顛末である。
(仲間が増えることはいいことだよね)
修太郎も上機嫌な様子で頷いている。
『絶対の忠誠か。前の主への忠誠を簡単に失っておいて、よくもそんな軽口が叩けるな』
幻影の言葉に、カムイが激昂する。
『黙れ。己達は元々ヴォロデリアによって力を剥奪された所に、忌々しい召喚士が奇妙な力で縛っただけの事。奴の死後、その呪縛からは解き放たれようともこの場所から出られず、死ぬこともできず苦しんだ己達の無念がお前に分かるか』
幻影に向かい、口内で光を溜める――
カムイは白の、セムイは黒の光が集まる。
『ま、待て! 私に攻撃などと……』
その言葉も虚しく、放たれた二色の光線。
凄まじい熱量に周囲の温度が一気に上がる。
『グウウアアアア……!!!!』
幻影はそれに抗う力を持っておらず、断末魔の叫びと共に蒸発したように消え去ったのだった。
「これで、終わりかな?」
辺りを見渡す修太郎。
『おめでとうございます。昇級試験第三段階目が完了しました。これにより第一段階目が自動達成となり、全項目達成となります。報酬が二段階ランクアップします。報酬が最大となります』
修太郎の視界にシステムアナウンスが流れ、修太郎の体が眩い光に包まれた。
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依頼内容:昇級試験(EX)
依頼主名:職業案内所
有効期間:47:39:11
第一段階:陰陽召喚士の神殿から宝玉を取り持ち帰る(達成)
第二段階:遺跡内の全てのmobを撃破する(達成)
第三段階:陰陽の竜と陰陽の召喚士を撃破する(達成)
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