013
客間にて、しばらくダンジョンマニュアルを読み耽っていた修太郎――さながら、やることが無く机に座って社内マニュアルを眺める新入社員のようだが、そのお陰で、ダンジョンについていくつか分かった事がある。
1.ダンジョン生成を発動してから、最短でも2日間は開放されない。
これはどちらかといえば修太郎への配慮で、設定すれば最大で一週間はダンジョンへの侵入を防ぐ事もできる。それは、できたてのダンジョンにはモンスターも罠も不十分であるため、即座に攻略されないための措置だ。
もっとも、このダンジョンに関してはその限りではないのだが。
2.経験値は倒した外敵からのみ得られる。
修太郎がレベルを上げるには侵入者を倒す他なく、たとえば自分で召喚したモンスターを自分で倒しても〝外敵〟に該当しないため経験値は得られない。しかし外界での戦闘は全て〝外敵〟に該当するため経験値は獲得できる――つまり修太郎のレベルを上げるにはダンジョン内に侵入した者を倒すか、外界の者を倒すかの二択になる。
3.ダンジョンコアが破壊されると、ダンジョンマスター含めたモンスター全てが破壊され、ダンジョンは崩壊する。また、ダンジョンの主が討伐されてもダンジョンコアは破壊される。
(3は一番気をつけなきゃだなぁ)
魔王達やプニ夫がいれば大抵の侵入者は撃退できそうだが、万が一がある。修太郎は、せめてダンジョンコアの場所くらいは把握しておこうと考えていた。
(ポイントはどうしようかな)
本来ならとても重要なダンジョンポイントだが、規模、設備、戦力は全て揃っているためほとんどが手付かずとなっていた。
所持ポイント:999 P
○開拓
○建築
○召喚
「ん? あれ……なにこれ」
ふと、修太郎は視界の横に小さく光る〝クエスト完了通知〟という表示を見つけた。ここにきてはじめて気付いたのは、多少なりとも修太郎の心に余裕が生まれていたからに他ならない。
通知の横には〝999+〟とある。
修太郎はそれを何気なくタップした。
○ダンジョン生成[報酬受け取り]
○モンスターを召喚[報酬受け取り]
○モンスターを合成[報酬受け取り]
○配下を5体まで増やす[報酬受け取り]
○配下を10体まで増やす[報酬受け取り]
○配下を20体まで増やす[報酬受け取り]
○配下を50体まで増やす[報酬受け取り]
:
:
:
「なにこれ」
ずらりと並んだのは、完了項目の一覧。
その全てがダンジョンに関する項目だ。
上の三つには心当たりがあるものの、プニ夫以外召喚していない修太郎は配下の数に疑問を抱きつつ、更に下へとスライドさせてゆく。
○配下を100,000体まで増やす[報酬受け取り]
○配下を500,000体まで増やす[報酬受け取り]
○配下を1,000,000体まで増やす[報酬受け取り]
○配下を5,000,000体まで増やす[報酬受け取り]
:
:
:
「これって、バンピーの配下のアンデッドモンスターみたいな存在まで全部含まれてる?」
考えられる理由はそれだけだった。
事実、修太郎はあまたの魔物を統べる王達を配下にしたために、王達の配下までも全て配下にした扱いとなっている。そして〝配下を〜まで増やす〟の項目は一千万までが上限で、修太郎は上限いっぱいまで完了した扱いとなっていた。
試しにダンジョン生成の完了報酬をタップしてみる――すると、
以下の報酬を獲得しました
報酬:20 P
報酬:召喚レシピ《ゴブリン》
達成内容に応じたダンジョンポイントと、召喚レシピが追加された。これにより、修太郎はスライムの他にゴブリンを召喚できるようになっている。
モンスターの種類を増やす方法は四つあり、元々レシピとして存在したモンスターを進化させる方法と、外部から来たモンスターをダンジョン内で倒しレシピを得る方法、ランダム召喚、クエスト達成報酬によるアンロックである。
一番簡単なものでゴブリンならば難しいものは何が貰えるんだ――と、修太郎は興味本位で配下1000万達成報酬をタップした。
以下の報酬を獲得しました
報酬:15,000,000 P
報酬:新機能《覚醒》
覚醒――
一定の条件を満たしたモンスターの成長限界を突破させ、先の存在へと昇格させる。
「これを使うとプニ夫がもっと強くなるってことかな? もしかしたら、魔王の皆は覚醒してるからあんなに強いのかもしれない」
修太郎はプニ夫にそう話しかける。
プニ夫はプルプルと揺れるだけだ。
試しにプニ夫を覚醒させようとする修太郎だったが、覚醒するにはダンジョンポイントが5000万必要とあり、あまりのコストにひとまず断念する事になった。
修太郎は一旦受け取るのを辞めて、さらに下へとスクロールさせる。
○モンスターを合成強化する[報酬受け取り]
○モンスターをLv.10まで合成強化[報酬受け取り]
○モンスターをLv.20まで合成強化[報酬受け取り]
○モンスターをLv.30まで合成強化[報酬受け取り]
:
:
:
こちらは収容された魔物を糧にプニ夫を強化した時の報酬で、上限は120まであり、100までが完了扱いとなっている。ここから読み解ける情報として、モンスター(プレイヤーはまた別の可能性があるため)のレベル上限は〝120〟であることが分かる。
つまり、魔王達はレベル上限の存在。
それが覚醒によるものかは分からなかったが、システム上では最大値である事がわかり、修太郎は生唾を飲み込んだ。
○スライムを1段階存在進化させる[報酬受け取り]
○スライムを2段階存在進化させる[報酬受け取り]
○スライムを3段階存在進化させる[報酬受け取り]
○スライムを4段階存在進化させる[報酬受け取り]
○スライムを5段階存在進化させる[報酬受け取り]
:
:
:
修太郎は色の変化にだけ気が付いていたが、プニ夫を強化した際プニ夫は進化している。それは進化上限の5段階まで進化しており、現在の種族名は〝アビス・スライム〟である。
城塞都市リーガルシア周辺mob図鑑から引用すると、アビス・スライムは様々な属性を持つマジックスライム系列の頂点に位置する存在であり、同格のキング・スライムに比べ形状に変化はないが戦闘能力に特化している。深淵エリアで稀に出現し、攻撃には高レベルの《毒属性》《闇属性》《不死属性》が含まれるため、高名な神官を連れて行く必要がある――
しかしアビス・スライムの凶悪性に関しては、修太郎含めプレイヤーの誰もが知らない情報であるため、修太郎本人はこれに関して「なんかかっこいいね」とプニ夫を撫でるだけだった。
そして一時間ほど経った頃。
「失礼します――」
軽いノックの後、客間に白い少女が入ってきた。修太郎は大きくノビをした後、バンピーへと向き直る。
「? どうされましたか?」
「ううん。ちょっと疲れちゃって」
主に受け取りの際に連打した人差し指である。
表示では999+となっていた達成報酬だが、実際のところ1288項目が達成されていた。それはダンジョンスキル全体の達成率に変換すると、およそ86%に相当していた。
所持ポイント:67,810,660 P
○開拓
○建築
○召喚
○覚醒 NEW