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128 s

 


 時間は遡り、月の神セムイ。


 セムイは、徐々に近寄ってくる〝化け物〟の実力の底を推し量れずにいた。


 妖艶な笑みを浮かべた白い少女。


(違う。これは戦うとか、逃げるとか、そういう理屈が通る相手じゃない)


 かつて神だった竜、セムイ。


 カムイとの争いは常に互いを殺すつもりでやっていたし、何者かに介入されても、戦いの余波で塵となり消え失せるため気にする必要は無かった。


 カムイとセムイにとって己の主以外は皆等しく〝興味のないもの〟であり〝有象無象〟であったから――しかしどうだ、今まさに己を討たんと迫るアレの前では、己の命など吹いて消える程度のものでしかない。


 有象無象の側に、初めて立った感覚。

 抗えない敗北、そして死の恐怖。


「怯えているの?」


 バンピーはセムイに尋ねる。

 セムイの体は小刻みに震えていた。


 セムイの体に触れた手は、

 氷のように冷たく、そして小さかった。


「賢い子は好き。私は戦って散るのが真の美徳とは思わないから」


 命が凍りつくような真っ白なオーラ。

 死神のような少女。


 陰陽の召喚士に縛られて(・・・・)百数年。かつての主は祭壇に祀られ、主の形をした幻影に従うのを辞めたのが、ちょうど百年前だった。


 セムイは最果てにいる己の片割れ(カムイ)を想いながら、覚悟を決めた眼でバンピーを見た。

 


*****



 太陽の神カムイは悟っていた。

 目の前の男が、自分よりはるか格上である事を。


 エルロードの周りには夥しい数の魔法陣が浮かんでおり、エルロードはカムイの動きを観察しているように見える。


(魔法ならば、己の肉体で耐えられる)


 カムイとセムイの鱗は特別だった。

 二匹の鱗は神の位置にいた頃に着ていた衣が変化したもので、あらゆる属性の魔法に耐性を持つ。


 しかし何故だろう。

 こんなにも恐ろしいのは。


 カムイは自然と自分が〝攻撃を防ぐ〟ことを第一に考えている事に気付く――かつては神として崇められ、竜となった今も世界の覇者である己が、目の前の男に圧倒されている。


(舐めるなよ!)


『《プロミネンス・ノヴァ》』


 エルロードに向け放たれたのは巨大な炎の塊。それが轟々と音を立てながらエルロードに迫ると、顔色も変えずエルロードが指を動かした。


 銀色の懐中時計のエフェクトが回る。

 

 コッチ、カッチ


 コッ……チ、カッ……チ


 懐中時計の針が進むと共に、炎の塊の速度が徐々に徐々に遅くなってゆく。


 カッ…………チ………!


 そして、完全にそれが空中で止まった。


 エルロードはそれを観察するように眺めながら指で弾くように触れると、カムイの攻撃は光の粒子となり儚く消えた。


 エルロードは肩を竦めてみせる。


「一瞬で格の差を感じ取ったまでは良い。闘争心も結構。しかしその後放ったのは小手調べの軟弱攻撃――実に興醒めです」


 そう言いながら、エルロードは周囲の魔法陣の中から一つを取り出すと、自分の掌の上に置く。そのまま掌をカムイに向けると、不敵に笑った。


「一撃で倒すつもりの魔法というのは、こういうものです」


 それは、漆黒の閃光。

 ほんの0.2秒間の出力。


 しかし、威力は絶大だった。

 カムイの肩から先が無くなっていたのだ。


『ぐおおおおおおお!!!』


 遅れてくる痛みにのたうちまわるカムイ。

 撃ち抜かれた――ということまで予想がついたカムイだが、この魔法には恐ろしい効果が秘められていた。


 撃ち抜かれた傷口がみるみるうちに黒ずんでゆき、たちどころに腐っていく。いや、腐るというよりも〝食われている〟と形容した方が適当かもしれない。


「《深淵の蟲(デ・バグ)》」


『?』


「それは相手の魔力に引かれる蟲を模した魔法です。対象を喰らい尽くすまで攻撃の効果は続き、受けた傷は治りません」


 一撃でハッキリした実力の差。


 最強の防御だと思っていた己の鱗が簡単に貫かれ、反撃の時間すら許されない事実上〝詰み〟を叩きつける魔法。


(実力の一端を見たからこそ分かる)


 カムイはエルロードから滲み出る底無しの魔力を感じていた……彼が実力のほんの少しも出していないことも。


 カムイに抗う術はない。

 神の誇りか、命乞いもしない。


(すまん我が半身、先に逝くぞ)


 悟ったように首を垂れ、(弱点)を見せる。


『やれ』


「元よりそのつもりです」


 また一つ、魔法陣を掴むエルロード。

 掌で魔法陣が大きくなり、黒炎が灯ったように見えた。


「《黒の――」


『待って』


 とどめを迫るその刹那――念話が届いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 圧倒的でいいね
[一言] バンピーにセムイは何を願ったのかな?
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