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mobのレベル上限は120である。
けれども、レベル120同士が互角というわけではない。それは特性だったり、ステータス的なポテンシャルだったり、スキルのレベルだったりが関係するが、基本的には〝存在としての格――階級〟によって強さのベースが決定付けられるといえる。
例えばスライムのレベル120と、プニ夫の種族であるアビス・スライムのレベル120では、後者の方が圧倒的に強い。
これは種族の格が違うため、その他追随するステータス諸々も桁が変わってくるからである。
例えるなら、同じだけの訓練を施された5歳児と18歳の駆けっこ勝負のようなものだ。同じだけの経験を積んでいても、歩幅や体力、筋力が圧倒的に違うのである。
スライムは〝第一階級種族〟でアビス・スライムは〝第四階級種族〟にあたる。それぞれ階級ごとに強さの上限は変わってくるため、最大階級である〝第五階級種族〟のレベル120ともなればその強さは計り知れない。
『どうした。何をしている、お前たち!』
陰陽の召喚士の幻影は、目の前で起こっている状況を理解できなかった。召喚したのはカムイとセムイと同格の召喚獣――しかしどうだ、対する一人の男に、全く攻撃が通らないのである。
三方向からの猛烈な攻撃を受けながらも、全くダメージが無いように、退屈そうに欠伸をする第三位魔王。
「まるで勝負にならないではないか」
その瞬間、ガララスの固有スキル〝金剛の肉体〟が発動した。
召喚獣の三匹は凄まじい轟音と共に襲ってきた〝赤色の衝撃波〟に撃ち抜かれると、神殿の方々に打ち付けられ、ガラスにヒビが入るが如く粉々に砕け散った。
固有スキル〝金剛の肉体〟
相手の攻撃が自身の防御力を下回っていた場合、そのダメージを無効化し、受けるはずだったダメージにガララス自身の攻撃力を上乗せした数値を対象に跳ね返す効果を持つ。
『そんな、まさか……主の召喚獣達が……究極の個体が、なぜ……?』
一瞬のうちに三匹が玉砕した事に衝撃を受ける幻影。ガララスは不思議そうな顔で首を鳴らした。
「お主は世界を知らない、所詮は遺跡の中の鳥よ。究極の個体というのはそんなハンパな第五階級種族を指す言葉ではない。その頂の更に上、本当の高みにこそ究極は存在する」
何もせずに勝ってしまった――と、本気で肩を落とすガララス。修太郎は唖然とした表情で呟く。
「圧勝……」
「格を上げた所で第五階級種族じゃ〝第七階級種族〟と勝負になりませんよ。伊達に王は名乗ってません」
煙草をふかしながら笑うバートランド。
mobの最終到達地点は第五階級である。
全てのmobはその頂に登る資格を持つ。
しかし、その上には更に二つの階級が存在していた。その事実を知るのは、本当の頂きにいる魔王達のみである。
(レベルが同じでもあんなに圧倒的な差があるんだ……)
修太郎は〝魔王〟という存在の規格外さを改めて認識することとなった。
「終わったみたいだな」
目を伏せていたセオドールが呟く。
空が真っ白な空間となっていた。
快晴でもなく、もちろん夜でもない。
そこにあった色が全て消えたような――そんな色だった。




