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天空を駆ける、二匹の竜。
片方は、赤色の鱗に黄色の瞳。
片方は、青色の鱗に黒色の瞳。
灼熱の光線が大地を割ったかと思えば、絶対零度の光線がそれを追うように駆け抜ける。はるか天空で絡み合う二匹の竜は、互いを傷つけながら空の色を塗り替えてゆく。
神の国モルデアントバレー周辺mob図鑑から引用すると、天空の覇者カムイとセムイは、かつて朝と夜を司る神であった。この二体の兄弟喧嘩によって、目まぐるしく変わる環境に適応できない生物達が、生態系を作れず滅んでいく時代があった。しかし、闇の神ヴォロデリアによって神の位を剥奪され竜の姿に変えられたのち、古の召喚士との契約によって鎮められ永きに渡る兄弟喧嘩は幕を閉じたという――
『何か来るよ』
『禍々しい力を感じる』
二匹の竜は、地上から昇ってくる強大な何かの気配を察した。
そして二匹の竜は別々の方向へと飛んでゆき、異なる世界の果てでそれを待った。それにより、世界は朝と夜で二分される。
「ごきげんよう。身勝手な神様」
月の神セムイの元へ来たのは美しい白の少女。
純白のドレスに身を包み、王冠の形をしたツノを持つその少女は、まるで〝死〟そのものだった。
『お前、何者だ』
太陽の神カムイが相対する男に声を荒げる。
青色の髪と赤の瞳、執事服に身を包んだその男は夥しい数の魔法陣に囲まれながら、笑みを浮かべた。
「ただのしもべですよ」
*****
世界の朝と夜が、中間から動かなくなった。
比率が変わるのは兄弟の喧嘩の影響。
となれば――
「始まったか」
腕組みをするガララスが呟く。
修太郎達は祭壇付近で待機しているのだが、未だに陰陽の召喚士らしき者は現れない。
(やっぱり二体が倒れてから現れるタイプのキャラクターなのかな)
修太郎が薄々そう感じて来た頃――
祭壇の前に煙のようなモヤのような、黒と白が入り混じった何かが現れる。
セオドールとバートランドは武器を構えた。
『神聖な地を汚す侵入者よ。ここは召喚獣達の楽園、そして我が主が眠る場所。何人たりとも足を踏み入れることは許されない。我が主の力を持って排除する』
現れたのはボロ布を纏った老人。
それは陰陽の召喚士の幻影だった。
大きな杖を持つ腰の曲がった老人が修太郎達の元へと歩み寄ってくると、持っていた宝石のようなものを地面に転がした。
脈動すると共に、ヒビが入る宝石。
中から光が漏れ出し、弾けた。
それはみるみる形を変える。
宝石は三体の化け物に変化していた。
(そっか。カムイとセムイが召喚獣なら、後三体居ないとおかしいもんね)
現れたのは巨大な二足歩行の一角獣。
闇を纏った赤い眼の猿。
そして、緑色の美しい女性。
「我が行こう」
そう言って歩み出たのはガララス。
豪華なマントをはためかせ三体を見下ろした。
『なるほど。はるか格上、か』
ガララスを見るなり、ひとめで実力の差を感じ取った幻影。そして何かの文言を唱えると、三体の体が紫色の光に包まれ、魔王達はその三体の〝格〟が明らかに変わったのを感じた。
「勝てるの……?」と、心配の表情をガララスに向ける修太郎。対するガララスは特に何かする訳でもなく、ただそこに腕を組んで佇んでいた。




