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三人と別れてから数分後――
ほどなくして何かを察したバートランドは愉快そうに声を上げた。
「おーこれは凄まじい」
「ん? どうしたの?」
「この神殿内のモンスターが殆ど消え去ってます。あの三人が暴れてるんでしょうねェ」
それを聞いて修太郎も苦笑いを浮かべる。
目的の途中に出現したmobを全て蹴散らし進んでいく――特にバンピーとガララスの姿が容易に想像できたからだ。
「意気込んでた三人には気の毒だが、どうやらこの道が〝アタリ〟のようだな」
先頭を行くセオドールが立ち止まる。
つられて修太郎が視線を上げると、そこには何十段と伸びる石造りの階段の先、荘厳な佇まいでそこにそびえ立つ神殿があった。
神殿の入り口と思しき場所には、
何かのマークが彫られている。
「神殿の中こそ何かすごいモンスターがいそうだよね」
冗談っぽくそう言う修太郎だったが、セオドールが驚いたような表情でそれに答える。
「察しの通り、あの先に強力な気配を感じる。神殿を守護する何か、か」
「あ、ほんとに?」
当てずっぽうを肯定され困惑する修太郎。
警戒しつつ階段を上り、入口へと辿り着く。
中は至ってシンプルな造りとなっており、広い空間の中心に祭壇が一つ、それを挟むように竜の形をした像が二つ。
中心部に祀られるように置いてある〝太陽と月のマーク〟が描かれた水晶のような物を見つけ、修太郎は指をさした。
「きっとあれが宝玉だ」
昇級試験の第一段階目標である〝宝玉〟を見つけた修太郎。その前に――と、セオドールが素早く剣を打ち出した。
スパパッ! ズズン……!
二体の竜の像が音を立てて崩れ落ちる。
それは悲痛な叫び声と共に光の粒子となって、ほどなくして消え去った。
古代都市ムスキア周辺mob図鑑から引用すると、古代魔道ゴーレムは一見して普通の石像である。しかし主の所有物を奪わんとする者には容赦なく襲いかかり、材料として用いられたモンスターの力を使う事ができたとされている。今は失われた古代の魔法である――
「あーらら、なんか物凄くかわいそうなことしたんじゃない? 旦那」
「敵は斬るのみだ」
動くことすら許されなかったゴーレムに同情するバートランドは、無表情で剣をしまうセオドールに苦笑を浮かべる。
その瞬間、修太郎にアナウンスが鳴った。
『おめでとうございます。昇級試験第二段階が完了しました。報酬をランクアップします。詳細はクエスト画面にてご確認ください』
首を傾げる修太郎。
なぜなら、まだ宝玉を取っていなかったからだ。
(二段階目って、なにを達成したんだろ)
そう心の中で呟きながらクエスト画面を開く。
○○○○○○○○○
依頼内容:昇級試験(EX)
依頼主名:職業案内所
有効期間:47:44:07
第一段階:陰陽召喚士の神殿から宝玉を取り持ち帰る(0/1)
第二段階:遺跡内の全てのmobを撃破する(10,709 / 10,709)
第三段階:陰陽の竜と陰陽の召喚士を撃破する(未達成)
○○○○○○○○○
その後、修太郎は二人の魔王に見守られながら祭壇にあった〝召喚士の宝玉〟を取ると、特別な戦闘も無く第一段階目標も(1/1)となり完了となる。
残すは第三段階目標のみとなった。
「っと、エルロードの旦那達も到着したみたいですよ」
そう言いながらバートランドが視線を入り口に向けると、ひどく落ち込んだ様子のバンピーとガララス、そしていつも通り落ち着いた表情のエルロードが立っていた。
「申し訳……」
「よかった、皆無事で! 皆のお陰で第二段階目標も達成できたよ、ありがとう!」
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
固まるバンピーの頭の中に修太郎の声が何度もこだまする。ガララスは目を手で覆うようにしながら「何者にも変えがたい」と天を仰いでいた。
「流石ですね主様。自ら神殿を発見なされるとは。我々の出る幕なしです」
と言って、微笑を浮かべるエルロード。
修太郎も笑顔でそれに答える。
「ううん、三人が頑張ってくれたお陰」
一頻り遠征組三人を労った修太郎は、本題の〝第三段階目標〟について意見を募った。
「この陰陽の竜ってなんなんだろ」
困ったように呟く修太郎。
ガララスは大袈裟に手を叩いてみせた。
「陰陽の竜――そうか、カムイとセムイが何なのか思い出した。東洋の神話に出てくる神の名だな」
眉間にシワを寄せ、バンピーが聞き返す。
「神?」
「そうだ。仲の悪い双子神で、それぞれ太陽と月を司っていると聞いたことがある。カムイが太陽、セムイが月。奴等は毎日争っているからカムイが勝ってる時は朝に、セムイが勝っている時は夜になる。つまるところ、カムイとセムイは遺跡内にあらず――」
そう言って、ガララスは指を上に向けた。
「空にある」
一行が空を見上げると、ちょうど太陽から月に変わり、朝を押し除け夜がやってきていた。
それを見て今度は修太郎が呟く。
「セムイの力強まりし時、世界に帳が落ちる。カムイの力強まりし時、世界に陽光が差す。世界の陰陽交りし時、祀りし祭壇に彼の者現れん――」
それはクエスト開始時のアナウンス内容だった。それを聞いてエルロードは納得したように頷く。
「世界の陰陽交わりし時……というのは、二つの神の力が拮抗している瞬間、それとも争いを止めている瞬間、という意味でしょうか」
「或いは、両方倒した後――とか?」
修太郎の言葉に、エルロードは微笑む。
「後者の方が分かりやすいですね。現段階で祭壇に何も変化がないのなら、主様が仰ったように二つの神討伐後という意味かもしれませんね」
と言い、天を仰いだのだった。




