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 ――バンピー視点


 しばらく進み、ほどなくしてドーム状の空間に出たバンピー。まるで闘技場のごときその空間に蠢くmobの軍勢を見下ろした。


(ハイヴン・オーガの根城、か)


 ラウガ族集落周辺mob図鑑から引用すると、オーガの最上位種ハイヴン・オーガは知能の高い種族だ。襲った人型種族の住処を無闇に破壊せず、その造りを理解することで文化を吸収する。しかし性格は冷酷で残忍。優秀な種族を見付けてはメスが絶滅するまで交尾し、オスは皆殺し。得られるものが無くなった種族を徹底して滅ぼし、他種族に知恵が渡らぬよう無慈悲に焼き払うのだという――


 驚くほど高度な文明がそこにはあった。


(一瞬だけ、神殿かと思って期待しちゃった)


 しかし、それが逆にバンピーの癪に触る結果を招いたのだった。

 

「一度だけ尋ねる――」


 バンピーの声に反応し、多くのハイヴン・オーガが住処から外に出てきている。その風貌は黒い体に白の染料で模様を描いた鬼のようで、手には質の良い武器が収まっていた。


「陰陽の召喚士の神殿はどこにある」


 凛としたバンピーの声が響く。

 その中でも最も年老いたハイヴン・オーガが前に出てきており、怯えた表情で答えた。


「申し訳ありませぬ。我らはここから先の世界を知らぬゆえ、存じ上げませぬ」


「そうか。無闇に脅してすまなかった」


 そう言って即死スキルを収め、先を目指すバンピーだったが、老いたオーガの続く言葉で態度を急変させた。


「時に死の王よ――この先になにやら旨そうな、あれは人族の匂いがするのですが、気付いておられますかな?」


「旨そうな、匂い、?」


 ハイヴン・オーガ達に緊張が走る。 

 バンピーの纏うオーラが爆発したからだ。


 しかしバンピーの表情は穏やかで、自分のドレスをスンスンと嗅いだ後、微笑む。


「この高貴な香りを、そのような低俗な言葉で表現するとは……知恵の種族ともあろう者共が聞いて呆れる」


「な、なにを――」


 次の瞬間、その場にいた全てのハイヴン・オーガ達が光の塵となって消え去った。


 およそ500もの数の、レベル120の個体全てが一瞬にして死んだのだった。


「聞くよりも自分で探した方が早い、か」


 涼しい顔で歩き出すバンピー。


 彼女にとって主である修太郎以外は、

 等しく不要な存在に他ならない。



*****



 ――ガララス視点


 膨大な魔力に引かれ、期待を胸に進むガララス。彼の前に広がったのは、遺跡内部に広がる広大な森だった。


(これは当たりか?)


 ある一点を見つめ、不適に笑うガララス。


 第一位や第二位を差し置いて、第三位である自分が神殿を見つけたとなれば二人はどんな悔しい顔をするのだろうか……その好奇心を原動力に、ガララスは森を進む。


 なによりも、主である修太郎からお褒めの言葉がいただけるかもしれない――それは今のガララスにとっては、どんな国を滅ぼそうとも、どんな相手を打ち負かそうとも、どんな酒を飲もうとも、到底味わえないほどの甘美な報酬であった。


 常に王として君臨していたガララスにとって、生まれて初めて心から〝仕えたい〟と思えた主君の言葉は、どんな些細なものでも彼の心に深く響いた。


『止まれ。強き者よ』


 ガララスの脳内に声が響く。

 ガララスは歩く速度を緩めない。


『最終警告だ。ここは我らダークエルフの森、領地だ。何人たりとも通すわけにはいかない』


 森の至る所で、何かを引き絞る音が響く。

 ガララスは興味深そうに立ち止まり、周りを見渡した。


 リンドヲ樹海mob図鑑から引用すると、森の番人ダークエルフはエルフ族とは異なる存在で、エルフ族の憎しみと怨念を糧に産まれた全く別の生命体と言われている。森を愛する心と守護する使命だけは同じだが、ひとたび領地に踏み込む者があれば、たちどころに魔力を帯びた毒矢を放ち、首を刎ね、森の外へ晒し首にする残忍さを持っている。エルフ族よりも膂力に優れ、夜を好む――


 個体によってまばらだが、成熟した個体はレベル110をゆうに超えるとされる。その軍勢が、弓を引いて森の中に潜んでいる。


(ダークエルフか。はて、先ほどまで太陽が出ていたと記憶していたが、なかなかどうして妙な世界だな、ここも……)


 見上げるガララスの上には月が出ていた。

 周囲は真夜中のように暗く、音もない。


 一頻り辺りを見渡した後、すぐに興味を失ったように再び歩き出すガララス。木々の上で一斉に音がしたかと思えば、万を超える矢と魔法の雨がガララス目掛けて降り注いだ。


 その全てがガララスを穿つ。

 そして、その全てが消え去った。


『馬鹿な……確かに今――!』

『全弾命中後、消えた』

『矢はどこへ?! 魔法は!?』


 ダークエルフ達の困惑の声がこだまする。

 ガララスは斜め前方へと視線を送った。


「手遅れになる前に、帰郷するがいい」


 そしてしばらくした後、再び歩き出す。


『おのれ、もう一度総攻撃だ』

『ありったけの魔力を込めろ!』

『巨人には竜の血を込めた矢を射ろ』


 いまだ姿を現さないダークエルフ。

 ガララスは呆れたようにため息を吐いた。


「総攻撃は大いに結構だが、次は(・・)主ら自身に当てる。いまいちど警告する。故郷に戻って、自らがした行いの愚かさを悔い改めるがいい」


 先ほど、ガララスが見ていたはるか斜め前方に、ダークエルフ達の集落があった――ほんの数秒前までは、だが。


 異変を察知したダークエルフ達。

 自らの故郷から〝声〟が一切感じられない事で、ガララスの言葉の意味を理解したのだ。


 そこには何も無かった。

 女も、子供も、老人も、建物も。

 囲っていた周囲の森さえも、無い。


 まるで空間ごと砕かれたように、ぽっかりと、穴が空いていた。


『女子供までも、よくも!!』

『おのれええ!!!!』


 先ほどよりも膨大な量の矢、槍、魔法の嵐がガララスに襲い掛かると、ガララスはその全てを体で受けた。


「つまらん」


 一瞬にして消え去る周囲の森。

 ガララスが攻撃したような素振りは見られない。


 謎の攻撃はダークエルフ達を粉砕するだけに留まらず、木々や地形をも破壊し、変えてゆく。


 最後に残ったのはダークエルフ達の〝故郷だった〟場所にある、神殿と形容できそうな建造物のみ。


(違う、か)


 しかし神殿内からはなにも感じず、ハズレと判断したガララスは奥へと続く道へと消えた。



*****



 ――エルロード視点


 異なる二箇所で強力な力の波動を感じながら、歩みを止め、前方に手を掲げる。


(他種族に対話を試みるお二人の優しさが理解できませんね。主様を待たせている以上、一秒として無駄な時間は許されないというのに)


 そのまま――縦横の長さを目測したエルロードは、1ミリの隙間も余さず攻撃魔法を発動させた。正方形のそれは通路に存在した瓦礫、草、小動物、mob、その他〝建造物〟以外の一切の障害物を溶かした。


 エルロードの前方にいたはずのmobは、

 今の魔法により全てが消え去っていた。


 どんなmobが居て、どんな生活を送っているのかすらエルロードには興味が無かった。彼にあるのはただただ、主様への忠誠心だけである。


(神殿を探すのに他の生命体は不要。建造物以外を排除し、その後探せばいい)


 エルロードが再び歩き出す。

 そこには彼の足音だけが響いていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一番やばかったw
[一言] 慈悲を与える二人は優しなぁ(白目)
[一言] そういえば配下は魔王でしたね。 これは他のプレイヤーの悪意が修太郎に向き、万が一修太郎が手傷を負えばどこまで被害が拡大するのでしょうね。 パーティー単位か、グループ単位か、ギルド単位か、はた…
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