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扉の奥に続いていたのは、遺跡だった。
かつては大いに栄え文明を築いていたであろうその場所に、人の気配は無いが、遺跡の内部よりも外――特に空に奇怪な現象が起こっていた。
「夜になったり朝になったり、変な所だね」
不思議そうにそう呟く修太郎。
視線の左下には『昇級試験中』という文字が光っており、その上にはパーティ一覧が並んでいた。
修太郎(L) 召喚士 Lv.30
+AcM エルロード
+AcM バンピー
+AcM ガララス
+AcM セオドール
+AcM バートランド
「この場所は主様達のいたカロア城下町とは全く違う空間のようですね。空間転移か、それとも別の世界か。魔力濃度が明らかに違う――我々のいたロス・マオラと近い濃度を感じます」
青い髪に、赤の瞳。
執事服に身を包んだ魔王――エルロードが興味深げに周囲を観察している。
「ロス・マオラと同等の魔力濃度であれば、退屈しのぎにはなりそうだな。主様、敵の殲滅は我にお任せあれ」
上質な鎧に身を包んだ髭の巨人――ガララスは、念願の城の外に出られた喜びを噛み締めながら、付近の魔力濃度を読み取り丁度いい獲物を探していた。
「主様にお時間を取らせるわけには行かない。私のスキルなら一瞬で終わる。それに貴方が暴れてこの空間に亀裂でも入ったらどうするの」
王冠に似た角を持つ白い少女――バンピーは、呆れたようにため息を吐く。そして横目で修太郎を素早く探したかと思えば、次の瞬間にはその傍に移動している。
「主様。プニ夫が居ないのは不安だろう。今回は俺が代役を務める」
そう言って、毅然とした態度でバンピーとは逆側に立った黒髪の騎士――セオドール。背中に美しい彫刻が施された長剣を背負っている。
「ちょっと、序列に従いなさい」
「? すまん、今回俺は主様の盾になると決めている。どいてくれないか?」
「貴方はいつも主様の側に居られるんだから今回くらい譲ってくれてもいいじゃない!」
火花を散らす二人。
そして同行した最後の魔王、金髪のエルフ族バートランドは、槍を首の後ろに回すように両肩に乗せ、手をぶらぶらさせながら風景を眺めていた。
「まだ戦闘が決まったわけじゃないのに、旦那も姉御も血気盛んだなァ」
賑やかな空間に居心地の良さを感じながら、修太郎はアイアンの事を考えていた。
「シルヴィアが残って様子を見に行くって言ってたけど、あれからあの世界では、また何年もの時間が経過してるんだよね?」
その問いに頷くバートランド。
「ま。奴に何かあったら、たとえダンジョンの外にいてもシルヴィアの姉御が感知するはずですからねェ。時間は掛かってますが、過剰に心配する必要もありませんよ」
それを聞いて安堵の表情を浮かべる修太郎。
そして試験開始から1分が経過した頃――遺跡の中で異変が起こり始めていた。