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一度第7部隊と別れた修太郎は、職業案内所に来ていた。理由はもちろん、レベル30で可能となった昇級が目的である。
(皆はPvPで盛り上がってる頃だろうし、僕も早く昇級して参加したいな)
受付NPCの回答をソワソワしながら待つ修太郎だったが、受付NPCからは意外な返答が返ってくるのだった。
「修太郎様は特殊な条件を満たされております。EXジョブへの昇級が可能ですが、いかがいたしますか? なお、職業内容は昇級後にならないと分かりません」
修太郎の動きが止まる。
EXジョブとは、騎士と聖職者を極めると出現するとされるワタルの〝聖騎士〟や、ショウキチやケットルの職業がそれに近い。しかしそれらはあくまでレアジョブであり、EXジョブとは根本的に異なっている。
つまる所、プレイヤーの中にEXジョブに就く者はおろか、出現条件を知る者すらいないのが現状。当然、修太郎の聖書である攻略サイトにも載っていないものだ。
「内容はどんなことをすればいいんですか?」
「内容をお伝えする事はできませんが、三つだけ、私の方からお伝えする事があります」
機械的な声色で続ける受付NPC。
「一つ、EXクエストにはパーティの参加が許可されます。ジョブに就くことができるのは対象者のみとなります」
試験を伴う昇級はあれど、パーティ単位で手助けできる内容は未だ存在しない。修太郎は「それだけ過酷な内容なのかな」と推測する。
(危険って事なら、ショウキチ達を巻き込む訳にはいかないな)
受付NPCが続ける。
「二つ、中では一切の経験値・アイテムドロップは発生せず、試験中の途中退出が認められません。例外として試験内容を確認した後、来た道を戻って退出することはできます。試験内容が難しいと感じた場合の救済措置となっていますが、退出した場合EXクエストの権利は失われます」
つまり、パーティメンバー達は骨折り損のくたびれもうけである。対象者の戦力増強がメンバーにとって圧倒的にプラスにでもならない限り、危険を冒して同行するプレイヤーはごく限られてくるだろう。
最後に――と、受付NPC。
「試験場内では一切の欲求を感じません。睡眠不足によるパフォーマンスの低下の心配もございませんが、疲労や痛みは感じます。長期の戦いになるため、十分な準備をよろしくお願いします」
これが単なるゲームであれば、無理難題も良いスパイスと同義――しかしデスゲームとなったこの世界において、あまりにも過酷すぎる試験条件である。
修太郎はフレンド欄からバーバラにメールを打つ。
『昇級に時間がかかりそうだから、しばらく別行動します』
受付NPCに向き直る修太郎。
「試験場所はどこになりますか?」
「場所は横にある〝試練の扉〟の奥です」
修太郎が視線を移すと、受付カウンターが並ぶずっと奥に、不自然に重厚な黒の扉が鎮座している事に気付く。その奥から感じるただならぬ気配に、修太郎は思わず身震いした。
今までの戦闘とは次元が違う。
修太郎は肌でそう感じていた。
『我々も同行いたします』
『うん、ありがとう。でも今回はちょっと嫌な気配がするからさ――』
シルヴィアにそう返しながら、修太郎は微笑む。
『皆で行こっか』




