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 業火に焼かれ、崩れ落ちる犬使い。

 そこかしこからレベルアップの音が鳴り、あたりは静寂に包まれた。


 悲鳴にも似た歓声が沸き起こる。

 野良パーティの多くはへたり込んでいた。


「助かりました!!」


 駆け寄ってきたのは、野良パーティのリーダーらしき男。

 金色の髪を立てており、ヤンチャそうな印象を受ける。


「皆さん無事ですか?!」


 周囲一帯を回復する《治療の陣》を発動しながら、野良パーティの安否確認をするバーバラ。リーダーらしき男は「お陰様で全員無事っす!」と、安心したように答えた。


「一旦敵の出ない場所まで行こうか。色々混乱してるだろうから」


 ラオの言葉に野良パーティは何度も頷く。

 一行は道外れの開けた場所に移動する。


「まさか消耗した所で犬使いに遭遇するとは、占いが当たっちったよ」


 安全な場所に来て落ち着いたのか、いつもの調子を取り戻したらしい金髪の男が苦笑する。男を咎めるようにメンバー達から野次が飛んだ。


「適正レベルを満たしてないのに、装備で底上げして無理やり挑むからそうなるんだよ!」

「紋章の支部長が言ってた通りになったじゃん」


 バーバラが事情を聞くと、この野良パーティは平均レベル25と、キレン墓地の適正よりはやや低かった。


 しかし〝たまたま拾ったモノ〟が高額に売れたため、それを資金に装備を一新して無理やりキレン墓地に挑んだのだという。


「(Kさんはこの人達がキレン墓地に挑むのを許可して鍵を渡したのかな?)」


「(たぶんギルド無所属だから強制力がないんだと思う)」


 声を潜める修太郎とケットル。


 ケットルの考察通り、ギルド無所属のプレイヤーに紋章ギルドから強制力のある命令などは届かない。それはKも言っていたように、紋章ギルドのメンバーも単なるプレイヤーに過ぎないからである。


 ギルド所属のプレイヤーよりも、無所属の野良パーティの方が圧倒的に死亡率も高いのは、こういう所に理由がある。


「その、たまたま拾ったモノとは?」


 気になった怜蘭が尋ねると、金髪の男は得意げに答えた。


「一昨日くらいにウル水門付近で拾ったんすよ。たぶんプレイヤーの落とし物かなと思ったんすけど、うちのメンバー誰も装備できないから思い切って売ったんすよ! あれまた落ちてないかなぁ」


 そう答える金髪の男。

 考える素振りをしたのち、怜蘭が口を開く。


「それ、多分遺品かも」


「遺品?」


 怜蘭の言葉に金髪の男が驚く声を上げた。


「プレイヤーが死ぬとね、所持品や装備品のいくつかがその場に散らばるの。時間が経つと消えてしまうんだけど、物によって時間差があるから最後に残った武器を拾ったんじゃないかな」


 それを聞いてバツの悪そうな顔をする野良パーティ。微笑みかける怜蘭は、その行為を否定することはしなかった。


「別に盗んだわけじゃないし、売るのだって拾った人の権利だと思う。そうやって、別の人の糧になるなら本望だと、私はそう思うし」


 最前線を生き抜いていたからこその重み。

 野良パーティ達は互いに顔を見合わせる。


 でも――と、続ける怜蘭。


「気を悪くしないでほしいけど、装備で底上げしてまで適正以上のエリアに挑むのは辞めた方がいいと思う。ボスモンスターに備わっている特性によって、攻撃は全て半減されちゃうから――無茶し続けたらきっと、死ぬと思う」


 今のままだと死ぬ。

 ハッキリとした口調でそう告げる怜蘭。


 適正以上を推奨する理由はここにある。


 攻撃が半減されるということは、戦闘が長引くということで、長引けば集中力の低下・連携のミス・アイテム品の枯渇など、時間を追うごとに〝死〟に近付くからだ。


 金髪の男は俯きがちに頷いた。


「出直します。そんで、遺品の武器はもう無くなったけど、ソイツが残した〝生きた証〟を繋ぐ気持ちで、また色々挑戦するっす」


 自分が無茶をしている自覚があったためか、怜蘭の一言で心からの反省をする金髪の男。パーティメンバー達に「ちょっと急ぎすぎたね」と励まされ、涙ぐんでいた。


「出口まで送ろうか?」


「いえ、道中のmobなら装備のアドバンテージで苦戦せず進めるのでお気遣いなく! 徘徊ボスの犬使いも、すぐに再沸きしないと思いますし」


 ラオの申し出をメンバーの一人が有り難そうに断りながら、落ち込むリーダーを励ます形でその場を後にする野良パーティ。


 その背中を見送りながら、ショウキチが呟いた。


「遺品かぁ」


「どうしたの?」


 そう尋ねるケットルに、ショウキチは感慨深げに続ける。


「俺らって、死んだらデータの屑になって消えるだけじゃん? でも遺品として何か一つ残ってれば、少なくとも拾った人の中では生き続けられるのかなって思った」


 それを聞いてラオ達は口をつぐむ。


 彼女達の所持品の中にも、かつての親友が使っていたアイテムが大切に保管されていたからだ。


「この世界で死ぬなんて考えない」


 少し怒ったように、ケットルが反論する。


「遺品だって、拾った人だって、今は全部データにすぎないもん。データの屑になって死ぬなんて嫌。私はこの地獄を終わらせて外に出て、好きな人と結婚してたくさん子供を産んで、おばあちゃんになって家族と孫達に囲まれたベッドの上で死ぬって決めてるもの」


 それはショウキチに言った……というより、そう自分に言い聞かせているように聞こえた。


 ラオは嬉しそうにケットルを力一杯抱きしめた。


「っし! じゃあ私はケットルが好きな人と結婚する所を見るまでは死なないぞ!」


 豪快に笑うラオ。

 ケットルは顔を真っ赤にして暴れている。


「てか好きな人って誰? 誰?」

「ショウキチ君? それとも修太郎君?」


 大人の女性達にからかわれ罵詈雑言を吐き散らすケットル。ボス戦前の緊張など吹っ飛んだ一行は、そのままキレン墓地最深部であるデュラハンの館へと向かったのだった。


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[一言] 遺品かぁ
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