103
ボス級mobを単騎で屠る召喚獣は、思ったよりもすんなりと受け入れられた。ラオと怜蘭はシルヴィアをまじまじと見上げながら、興奮した様子で語り出す。
「最前線でも似たような奴がいるし納得できるけど、これは三エリアを三週なんていよいよ楽勝か?」
シルヴィアの銀の毛並みを撫でながら、Kが掲示してきた課題について触れるラオ。修太郎がそれに答える。
「皆には隠す意味ないもんね。でもシルヴィアが全部倒しちゃったら僕にとっても今後のためにならないし、今回みたいな不測の事態だけ動いてもらおうと思う」
『それでいいよね?』
『承知!』
実の所、今回のシルヴィアの攻撃は修太郎の指示であった。
通常の思考で考えれば、危険が伴う戦闘は全てシルヴィアに頼るのが普通だし、不測の事態に不安がるパーティを危険に晒してまで出し惜しみする意味を修太郎は感じなかった。
戦力の開示。
秘密の共有。
(同じパーティメンバーには、シルヴィアの力はいつかどこかで見せることになるだろうし、それなら早めに二人にも把握してもらったほうがいいよね)
打算的に心の中で呟く修太郎。
これにより、修太郎はラオと怜蘭からの信頼も得ようと考えていた。そしてその目論見は無事果たされることとなる。
「バーバラさん達があえて触れなかった理由も、なんとなく理解した。強い力を持つ者はそれを皆のために使うのが義務だ――なんて考える人は、ここには沢山いるから」
何かを思い出すようにそう語る怜蘭。
最前線でも屈指の攻撃役だった彼女もまた、望まない戦いやくだらない抗争に参加を強要され精神をすり減らした過去がある。そのため、修太郎がシルヴィアの力をひけらかさず隠していた心理も理解できたのだ。
かくして、シルヴィアの力を知る者が更に二人増えた。
修太郎はどこか心に抱いていた〝後ろめたさ〟が、少しだけ軽くなったような気がした。
「ってかレベル上がって二次転職できるようになってる! うおおお双剣士きた!!!」
ステータスを見て歓喜の声を上げるショウキチ。それにつられ全員がステータスに目を落とす。
Party.A
バーバラ(L)聖職者 Lv.31
ショウキチ 剣士 Lv.31
ケットル 魔道士 Lv.30
キョウコ 弓使い Lv.30
ラオ 斧戦士 Lv.37
怜蘭 大剣士 Lv.39
Party.B
修太郎(L) 召喚士 Lv.28
+AcM シルヴィア
+AcM セオドール
30に到達したプレイヤーは二次転職ができるようになり、二次転職後は今より更に強力なスキルやステータス恩恵を受けられる――単純なレベルアップよりも、目に見えて戦力増強が期待できるのである。
「攻略初日に犬使いの戦利品ゲットとは幸先いいな! 後ろにここまで心強い援護射撃もあることだし、ここからは基本に忠実に慌てず焦らず進もうか」
ラオの言葉に全員が頷いた。
第7部隊は隊列を組んで歩き出す。
*****
スケルトンの頭蓋が砕けると共に、ここいら一帯のmobが完全消滅した。
開けた空間に、骨の落ちる音が響く。
ここはキレン墓地最初の難関である通称〝スケルトン広場〟で、足を踏み入れた者は、まるでモンスターハウスが如く押し寄せるスケルトン達をひたすら倒す必要がある。
初心者の死亡率が一番高い場所でもある。
「っし、とりあえず午前中の折り返し地点まで来たかな? 休憩挟んで〝兄弟〟の所まで行ったら、予定通り一旦カロアに戻ろ」
「はーー、賛成ー」
「聞くよりも体験する方がよっぽど大変……」
連戦に次ぐ連戦で流石に疲れたのか、ショウキチとケットルは膝に手を付いて呼吸を整えている。
「ほらほら、帰ったら転職も待ってることだしさ」
「そうだった!!! うおおおおやるぞ!!!」
キョウコの言葉にやる気を取り戻すショウキチ。バーバラと怜蘭は、ラオの言う〝兄弟〟までの道のりをMAPを開きながらおさらいしている。
『なんか変な感じしないか?』
唐突にそう言い出すシルヴィア。
修太郎ではなくセオドールに問い掛けているようだ。
『妙な場所だからか?』
『いや、なんかこう、臭いというか』
『犬の勘か?』
『トカゲには分からないか』
(魔王達って基本仲悪いのなんでなんだろ……)
魔王達の喧嘩を聞きながら修太郎は何気なく墓地を見渡す。
墓地は不気味なほど静まり返っているが、シルヴィアの言う〝臭い〟も感じられず、修太郎は気にせずショウキチとケットルの元へと歩いていった。




