小4の春休み 嵐の前は、幸せ絶頂。嵐の先は・・・
『空は、嘘をつかない。』
日野 姫子 9年の人生で、学んだことだ。
春の暖かな日差しが、差し込む4-3教室で男子達が馬鹿騒ぎしてる。
春の陽気と修了式終わりで気分が高まったのだろ。
それには、気を留めずゆっくりと流れる雲と龍に乗った珍しいゴブリンの配達員が通り過ぎていった。それを眺めながら、頭の中は、数日後に控えた春休みの家族旅行で一杯だった。
ドン!!と凄い音がした。
「ばっば、馬鹿ですって?よくも言ったわね。あんた。」
目線を移すと委員長が、鬼の形相で拳を振り上げ部屋の隅へと向かっていた。その先には、西野がいた。いつも友達の唯にちょっかいを出して来る男子だ。
そんな状況でも、「ブース。ブース。こっちまで、来いよ。」と繰り返し挑発した。周りの女の子達が、『委員長。あんなのにかまっちゃダメだよ。』と止めにかかる。
「もう、唯ちゃんやめなよ。こんな、奴相手にしちゃダメだよ。手を出したら、コイツら以下になっちゃうよ。」
「おい。やれよ。暴力女。怖くてても出せねえのか?眼鏡女。」
「唯ちゃん。ダメだよ。」
「委員長。お願いやめて。」
唯ちゃんは、今は、踏みとどまっているけど。
男子は、懲りずにまだ挑発を続けていた。
「おい。西野やめろ。甲月に殺されるぞ。」
「うるせえ、フミオ。そこを退け、手が出せねえのか眼鏡暴力女。」
そんな事をしていると、担任 天野先生がやって来た。
「おい。西野、女の子にそんな事を言っちゃダメだぞ。甲月と日野、児玉、席に着きなさい。西野は、後で職員に来なさい。いいな?」
何とか、4年生最後のホームルームが順調に進み春休みの宿題が配り終わった。後は、先生の話のみだ。
「春休みは、ただの休みじゃないぞ。5年生の準備をするための重要な時間だ。ちゃんと、予習と復習をするんだぞ。
それと、最後に、日野。天気予報士試験合格、おめでとう。頑張ったな。これからも、どんな事があっても自分に負けるな。1ミリでも、進み続ければ夢に近づくさ。
諸君、羽目を外さない程で楽しんでくれ。1年間、ありがとう。以上。」
「起立、姿勢、礼。日野先生、1年間ありがとうございました。」
引き出しとランドセルにスークルロッカーなどにしまっていた物を全て詰め込んだ。委員が、話しかけてきた。
「あ、ヒメちゃん。今日は、ありがとう。一緒に帰らない?」
「いいよ。唯ちゃん。ねえ、ロッカーに国語辞典なおしたまんまで、帰っちゃダメかな?」
「ダメよ。そしたら、他の子が困るでしょ。」
やる気のなさそうな、ため息をついて立ち上がった。
「おい。待てよ。お前ら、一緒に帰るなら教えてくれよ。」
甲月 唯は、少し喧嘩っ早いけど正義感強めで真面目だ。ちゃんと、言いたいことは、ズバッと言う女の子だ。
彼女とは、1年からの親友だ。料理やお菓子に、小動物が好きなど女の子ぽいところもあるけど、性格が邪魔をするらしい。
児玉 文雄は、お調子者だけど根はいいやつで3年の頃からよく遊ぶようになった。
「そういえば、ヒメちゃんは、いつ福岡行くの?」
「明日から行くけど。どうしたの?」
「そうなんだ。うんうん、用事は無いけど。気になっただけ。」
「そうなんだ。あっ、6日に帰ってくるから
7日辺りどこか、行かない?」
「うん。最近、カフェがオープンしたからそこに行こう。」
「いいな〜女子は、そういう楽しみあって。俺も日野が帰ってきたら、なあ甲月。」
「うるさい。1日ぐらいは、あんたとも遊んでいいわよ。ねえ、ひめこ?」
「そうだね。3人で遊びたいね。」
と会えない日々を埋まるように、いつも以上に話が尽きなった。名残しく分かれ道で、手を振った。
そんな事を考えていると、玄関が見えてきた。
「あっ、ヒメ。お帰り。ギュー。ちゃんと、明日の準備できてるの?」
「出来てるよ。いつもありがとう。ママは、いつも通り元気だね。」
ハグで迎えてくれた。そして、先週ペットショプで買った鼯龍のキュイがやって来た。大きさも体つき、耳、くりっとした目もモモンガや鼯ぽいけど。顔付きは、龍ぽい。
手洗いとうがいをしてから、キュイを撫でた。2階の自分の部屋へ向かった。弟 武の部屋を通り過ぎてすぐに呼び止められた。
「あっ、姉ちゃん。宿題で、分からないとこあるんだけど。ばあちゃん家で、教えてくれない?」
「別に良いけど。どの教科?」
「えーと。全部かな。ダメ?」
と子犬のような瞳で見つめられたら、断りにくい。
「あーー。わかったよ。ちゃんと、教科書持っていくんだよ。いいね。」
思わず了解してしまった。まー1年生だからそんなに、難しい問題とかもないだろ。
4年間分の教科書や問題集に、卑弥呼や信長など10冊の伝記が出てきた。使っていないキャリーバックに詰めてみたら、丁度入った。
「おー。ぴったり入った。これで、いっか。よーし。少し休憩しよっと。」
夕食まで、のんびりとくつろいでいた。
「ねー。姫子、武。ご飯できたよ。」
「ママ、ちょっと待って。準備が、まだかかりそう。」
「武、姉ちゃん手伝おうか?」
「ありがとう。でも、自分でやるから先降りてていいよ。だって、もうすぐで、2年生なんだよ。出来るよ。」
そんな返事に、嬉しくもありほっこりとした気持ちになった。
美容室チェーン店を経営している父は、会食をするので夕飯は、要らないそうだ。
母と武を待ってから、3人で楽しく夕食を食べた。 ソファに座りながらドラマを見ていると、チャイムがなった。母が玄関で迎えた。
「お帰りダイちゃん。」
「ただいま、小町ちゃん。」
といつものように会食から帰ってきた父とハグをしていた。朝早い出発の為、帰ってすぐにベットに向かった。
私と武も、部屋に戻った。だが、興奮して寝付けなかった。
眠たい目を擦りながら、ベッドを出た。朝食を食べた後、着替えと勉強道具をトランクに積んだ。
父の運転で9時に出発すると、しばらくして、寝ていた。12時過ぎに、宮原SAについた。春休みだけあって家族ずれで、いっぱいだった。
小籠包と焼きちくわ。いきなり団子とメロンパンを食べて出発した。
母に運転を代わり出発した。道は、結構混んでいて糸島に着いたのは、15時を回っていた。
着いたら、ばあちゃんとじいちゃんが笑顔で迎えてくれた。長時間の移動で、疲れて家族全員のんびり過ごした。
真鯛の煮付けに、カキフライなどのおかずが出てきた。懐かし味付けで、癒された。
2日目は、従兄弟の真希ちゃんや彩未ちゃんと遊び回った。夕食は、糸島牛のすき焼きとデザートにあまおうが出た。
3日目は、武と裏庭の木陰の切り株の上で勉強をした。最初は、算数から始めた。つまずいている繰り上がりと繰り下がりの計算を重点に教えていた。
すると、葉が揺れる音が徐々に大きくなって来た。そして、急に肌寒くなって来た。
ゴーと音が聞こえて、振り返る間も無く嵐に巻き込まれた。勉強道具と二人を巻き上げていった。
嵐に巻き込まれている間に、気を失っていたらしい。
目を覚ますと異様な光景に唖然とした。
石槍や剣を持った甲冑姿の男達が、目の前を通り過ぎた。
非日常すぎて、思考も体もフリズした。そして、我に戻ると同時に逃げ出した。
映画か時代劇の撮影に紛れ込んだらしい。
「痛った。ごめんなさい。急いでて前見ていなかったんです。」
「こちらこそ、ごめんなさい。ぼーとしていたので。」
「そうなんですか。ここで、話していたら危ないので急いで出ましょう。さー僕の手を取ってください。行きますよ。」
手に引かれながら、走っていると。
「なんだ、あの格好は?」「もしかして、神の子ども達とかじゃないのか?」
合戦の手が止まり、道が開け逃げ切った。
竪穴式住居が、何軒か見えた瞬間に一気に体の力が抜けた。
そして、目を覚ますと床に寝ていた。隣には、弟の健も横になっていた。
体を起こし部屋を出て、ベランダで夜風に吹かれ星空を眺めていた。
少しすると、さっきの物音で健も起きてきた。
「ここは、どこなの。あんた知らんね?」
「邪馬台国ってところらしい。卑弥呼って言うおばあちゃんが言ってたよ。その人が、ここで暮らしていいって。」
「邪馬台国に卑弥呼!!あんたね。こんな時に、ふざけないの。」
「ふざけてないよ。ちゃんと聞いたんだもん。」
冷静に考えてみたら、小4の自分もまだ、授業で習ってなかった。5年も歴史の教科書もらってないし。弟が、興味を持つとは思えない。
そんな弟が、冗談でそんな名前が思いつくはずない。
だけど、それが全部本当でもかなり信じがたい。天文学的な確率で姉弟に起きった不幸だろ。
ただ、ばぁちゃんの家で遊びに来ていただけなのに。
小1の弟と裏庭で宿題と予習を教えていた。その時に、竜巻に飲まれていたらこのざまだ。心の中で自嘲した。
「ごめんね。少しありえない事を言ったから。でも、今は信じるよ。起こしちゃって悪かったね。部屋に戻って寝よう。」
色々と考えながら、眠れず目を閉じていた。スヤスヤ眠る頬っぺたを眺めていたら、夜が明けた。